告知によると、老闆娘が病気のため、店を譲りに出すことになったようでした。その後2022年12月、この小屋に「新月亮緬甸小吃店」がオープンしたという流れです。
実はこの「新月亮」は、新オープンというよりも帰って来たという方が正しいかもしれません。私がミャンマー街に通うようになった2018年にはすでに営業していなかったのですが、それ以前に書かれたブログなどを調べてみると、「新月亮」はかつて華新街メインストリートで営業していたお店でした。
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新月亮緬甸小吃店 |
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新月亮緬甸小吃店 |
「新月亮」は定番ミャンマー料理を出すお店で、インド由来のダンバウッが看板料理のようです。
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新月亮のドーサ |
不思議なことに、生地の中にはたまごだけでなく砂糖も加えられており、これに辛くて塩っぱいソースを付けていただくドーサでした。付属のソースはひよこ豆のペースト、じゃがいもとローゼルの葉のペースト、青マンゴーと唐辛子のペーストでした。
Honey Smile小吃店
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Honey Smile(右)と金手藝(左) |
同じく華新街市場の周辺には、2023年春に二軒のミャンマー食堂がオープンしました。ミャンマー街のメインストリートと平行に走る小さな路地(華新街192巷)の「Honey Smile小吃店」と「金手藝」。どちらも定番ミャンマー料理を出すお店です。
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Honey Smile小吃店のミャンマー語メニュー
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Honey Smile小吃店のメニュー |
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Honey Smile小吃店店内 |
2023年2月にオープンしたHoney Smile。メニューを見ると、シービャンやモヒンガーなどの定番ミャンマー料理と一緒に、排骨や紅燒など、台湾でもおなじみの名称が並んでいました。ミャンマー本国でも華人の料理として食べられているのか、はたまたこちらの台湾人客も馴染めるように出している料理なのか、興味深いメニュー構成でした。
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タミンバウン 燴飯 |
最初の訪問時に注文したのはタミンバウン(燴飯ထမင်းပေါင်း)。いわゆる中華飯ですが、これはミャンマー本国でも華人の料理として親しまれているメニューのようです。
台湾のミャンマー街でもタミンバウンを出しているお店は数軒あり、具材はお店によって異なりますが、おおよそ豚肉・葉物野菜を軸にしたあんかけが大盛りのご飯にかかって出て来ます。味は日本人の想像する中華飯そのもので、インド中華のようなローカライズはされていません。
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パウンモウンチェッウージョー 炸蛋吐司 |
次に訪れた時にはミャンマー式フレンチトーストのパウンモウンチェッウージョー(炸蛋吐司ပေါင်မုန့်ကြက်ဉကြော်)を注文。デザートとミルクティー「ラペイエ」で一服つけるのにも使えるお店でした。
金手藝
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金手藝 |
Honey Smileの左隣に2023年4月にオープンした金手藝。こちらもご飯と一緒にいただくミャンマーのおかず「ヒン」などがメニューに並ぶ定番ミャンマー料理のお店です。
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金手藝の店内装飾など |
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金手藝のメニュー |
金手藝では華新街の他のお店ではあまり見かけないメニューも発見。ウェッタードウットー(串串豬仔鍋ဝက်သားတုတ်ထိုး)です。
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ウェッタードウットー 串串豬仔鍋 |
ウェッタードウットーはミャンマーのストリートフードで、串に刺されたモツなどを漢方のスープで煮込んだ料理です。私が通い始めた2018年から今まで華新街ではこれを出しているお店はなかったので、見つけた瞬間にさっそく注文。すると、その日はいくつかの具材を準備していないがそれでも良いか、とお店の方に聞かれました。
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ウェッタードウットー 串串豬仔鍋 |
そして出て来た料理がこちら。あれっ、串に刺さってない…。これじゃただのモツ鍋か滷味の大腸なのよ…。
美味しかったし量も多いので満足でしたが、これだとミャンマーのウェッタドウットーという感じがしません(笑)。
きっと店舗オペレーションの関係で、鍋で決まった量での提供なのでしょう。もっと多くの人が買うようになって、串に刺したやつを好きな量だけ買うっていうスタイルが可能になったら嬉しいですね。
華新市場
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市場周辺のミャンマー総菜屋 |
生鮮食品やお惣菜を売る人と買う人でごった返す伝統市場。華新街の市場も、基本的には台湾の他の地域の市場と変わらない世界なのですが、このエリアに住むミャンマー華人の多さを反映してなのか、ミャンマーの食材やお惣菜を売る人も少なからず存在します。
2023年に入ってから登場したのかは断言できませんが、ここ数年でミャンマーの物を扱うブースが微増したかな?という印象があります。
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長年営業しているアジョーザイン(揚げ物屋)
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華新街市場の建物の東側の路地には以前からミャンマーの揚げ物を売るアジョーザインがありましたが、この一帯にミャンマーの食材を売るブースが数軒あります。
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市場周辺のミャンマーおやつ&食材屋 |
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緬甸點心&食品 ミャンマーのおやつと食品 |
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ミャンマーのおやつ |
私がこの市場に足を運ぶのは大体土日の午前中なので平日もこれらのお店がやっているかは未確認なのですが、おそらく伝統市場が休みになる月曜日以外には営業していると思います。
最近ここのお店で売っているカウニェンバウン(ミャンマーのお赤飯のような食べ物)がお気に入りで何度か購入しています。
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ミャンマーのおやつ |
Winner Coffee & Tea
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Winner Coffee & Tea |
2023年1月に華新街メインストリートの入り口すぐの所にオープンしたWinner Coffee & Tea。
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Winner Coffee & Tea |
ここの老闆娘は台湾育ちのミャンマー華僑で、メニューにはラペイエ(ミャンマーのミルクティー)やモヒンガーと一緒に、台湾のタピオカミルクティーや冬瓜茶と言った手搖飲料店でおなじみのドリンクも並んでいます。
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Winner Coffee & Teaのメニュー |
お店のキッチンに並ぶ各種お茶を入れる大きな容器は、まさに台湾の手搖飲料店といった風情です。
1960年代から形成が始まった台湾のミャンマー街ですが、現在では台湾生まれ(または台湾居住期間の方が長い)のミャンマー華僑の子弟も少なくありません。そういった現状を反映しているのか、台湾とミャンマーの文化がミックスされたお店が登場したのはとても興味深いです。
とはいえ他のラペイエザインと同じく、お客さんはラペイエ一杯で延々とおしゃべりを続けるおじさんばかりでしたが(!!!!!)
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ミャンマーのミルクティー「ラペイエ」 |
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Winner Coffee & Teaのメニュー |
メニュー表にあるフードメニューはペーピョウタミンジョー(ひよこ豆のチャーハン)とモヒンガーだけでしたが、黒板にはオンノカウスエ(椰汁麵)や雲南の米麺の粑粑絲も書かれていました。
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店頭でミャンマーのおやつも販売 |
Winner Coffee & Tea (map)
花姊麻辣家
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花姊麻辣家 |
花姊麻辣家は華新街63號にできた雲南系ミャンマー料理屋です。2023年で一番変化が大きかったのがこのお店かもしれません。
ここの老闆娘はもともと、華新街38號の傣族姑娘というお店の前の騎樓で揚げ物を売っていました。
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傣族姑娘前の騎樓で揚げ物を売っていた頃(~2022年) |
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ミャンマーのドーナツ「モンレッカウッ」(画像右) |
2023年3月、ファミリーマート右隣のクレーンゲーム店(華新街59號)跡地の空いた物件に、騎樓の揚げ物屋の老闆娘が「麻辣家」をオープンしました。
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ファミマ右がクレーンゲーム店だった頃(~2022) |
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ファミマ右に麻辣家が入居(2023年3月)(麵線の店が営業していた記憶はない) |
「麻辣家」ではもともとやっていた揚げ物類だけでなく、メイン商品に雲南鍋貼(焼き餃子)がラインナップされていました。
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雲南鍋貼(焼き餃子) |
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麻辣薯條(マーラーフライドポテト) |
麻辣家が営業を始めて数ヶ月後のこと。2023年8月に華新街63號の金孔雀緬式小吃が「頂讓」(店舗を譲ります)の張り紙を出しました。
それから2ヶ月、2023年10月に華新街63號の金孔雀跡地の物件に、「麻辣家」が「花姊麻辣家」として移転オープンしました。
騎樓の揚げ物屋から始まったお店が、2023年3月に店舗を構えてから半年ほどで、より大きな物件にステップアップしたことになります。
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花姊麻辣家の雲南料理
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※花姊麻辣家はまだGoogleマップに登録されていないようなので、もともとこの物件に入っていた金孔雀緬式小吃店のリンクを貼っておきます
黎明雲南緬甸小吃店
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黎明雲南緬甸小吃 |
華新街にあるお店は全てがミャンマー関連の食堂や商店というわけではなく、台湾の他の街と同じようにチェーン店なども営業しています。華新街メインストリートの後半部分には2019年頃からミャンマーとは関係のないお店も現れ始めていましたが、2023年5月26日に新しいミャンマー料理店「黎明雲南緬甸小吃店」がオープンしました。
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黎明雲南緬甸小吃 |
店内は結構な人だかりでした。壁のイラストがポップな感じで、これまでのミャンマー街の食堂と比べると台湾の若者も入りやすそうなイメージです。このビルは騎樓の面積が広く、環境も他より良さそう。
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モヒンガーを盛り付ける店員さん |
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黎明雲南緬甸小吃メニュー
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店名は「雲南緬甸小吃」ですが、出しているメニューはモヒンガーやオンノカウスエなどの定番ミャンマー料理と、雲南系の米線や粑粑絲も扱っていました。
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ラペッタミン 茶葉拌飯 |
私はこの日はご飯ものの気分だったので、発酵させた茶葉をご飯に和えたラペッタミン(茶葉拌飯လက်ဖက်ထမင်း)を注文しました。
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客も多く、賑わっている
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ところでこの黎明が入っている華新街79號ですが、2019年頃から入居する店舗がなかなか根付かない物件でした。
2020年には耕耘大甲乾麵という台湾の麺のお店が入っていたのですが、コロナ禍もあってか長続きせず空き物件に…。
2022年夏頃には選挙のため、民衆党候補者の事務所として一時的に使われていましたが、選挙が終わったらまた空き物件になりました。
こんな風に、華新街にミャンマーとは関係の無いお店が一時期増えていた中で、久しぶりに入ったのがミャンマー料理屋の黎明さんなので、長く経営が続くといいなと思っています。
山霸食品
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山霸食品 |
2023年11月28日、華新街のメインストリートにミャンマーを始めとする東南アジア食品や乾物などを扱う食品店「山覇食品」がオープンしました。
このお店はもともと華新街市場そばの路地で営業しており、この度メインストリートの空いた物件に入居した形です。(もともとあったのはここもまたクレーンゲーム店。クレーンゲーム店淘汰の波が来ていますね)
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移転前の山霸食品 |
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移転を知らせる告知 |
華新街市場そばの路地の物件がややこぢんまりとしたお店だったところ、より面積の広いメインストリートの物件にステップアップしています。
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移転準備中の山霸食品(新店舗) |
移転準備中の新しい店舗前にインスタントのミャンマーミルクティーRoyalの箱がどっさりと積まれています。
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東南アジアや台湾で馴染みの食品や調味料がどっさり並ぶ |
冷蔵庫にミャンマー料理に欠かせない乾燥小エビが大量に並んでいたのが印象的でした。華新街で営業する食堂オーナーもきっと買い物に来るのでしょう。
沅保奶茶店@東森廣場
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東森廣場のフードコート |
沅保奶茶店は華新街でも人気のある喫茶店で、騎樓の席ではいつも常連のおじさんグループがおしゃべりに華を咲かせているお店です。
近年では華新街だけにとどまらず、外部へ進出する意欲が最も高いのが沅保奶茶店だと思います。
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華新街にある沅保奶茶店 |
2022年12月に新北市中和の東森廣場というフードコートにオープンした沅保奶茶店の新店舗がこちら。デパ地下のような現代的なフードコートに、ミャンマーのミルクティーが並ぶ日が来るとは…!
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東森廣場にオープンした沅保奶茶店の支店 |
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東森廣場にある沅保奶茶店のメニュー |
値段は本家華新街の店よりもやや高めに設定されていますが、ここにしかないフードメニューもありました。
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本店にないメニューを注文 |
咖喱雞肉捲餅は、パラーターに使う生地でチキンと生野菜をラップしたもので、ルマリロッティみたいな感じでした。
東森廣場のフードコートは沅保奶茶店の外部進出の例ですが、その先駆けとなる店舗を2021年末に興南路(MRT南勢角から華新街へ向かう大通り)にオープンさせていました。
2023年現在はこの興南路の店舗は閉めてしまっているのですが、沅保奶茶店は外部に進出する新たな戦略としてフードコートへの出店を進めているようです。新北市中和の東森廣場だけでなく、なんと台北駅の京站にも出店しているとか(こちらは私は未確認なので、ぜひ行きたい)。
終わりに
私がミャンマー街通いを始めた2018年当時、ミャンマーは民主化を実現させ経済発展を進める希望に溢れた国でした。その頃に、ミャンマーの経済発展を見越してミャンマーへ戻る華僑がいることや、台湾に移住したミャンマー華僑の高齢化などの話を聞きました。そのため私には華新街のにぎわいが先細って行くのではないかという不安がありました。
その後台湾にも襲いかかったコロナ禍、2021年2月のミャンマーでのクーデターと、社会情勢が大きく変化し、華新街にも変化がありました。コロナ禍では台湾は海外との往来を制限し、海外から留学生が入って来られなくなりました。それは少なからず華新街の客となるミャンマーの学生が例年より少なくなることを意味しました。
幸いコロナ禍をなんとか持ちこたえ、この間に華新街で閉店する店舗はありませんでした。2023年の現在では留学生も入って来るようになり、ここで商売をするミャンマー華人も気合いを新たにしています。華新街でこぼれ聞いた話ですが、最近は客足も戻ってきたので人手が足りず、ミャンマーから親戚を呼んで店の手伝いをしてもらっているという老闆の話もありました。
今回の記事で紹介したお店は、新しくオープンしたお店だけでなく、かつて華新街で営業していたお店が新たな物件を見つけて再オープンした例、より良い物件にステップアップした例、華新街を飛び出して台湾の繁華街に挑戦する例などがありました。私はこれらの例から台湾で暮らすミャンマー華僑で商売をやりたい人はまだたくさんいるんだということに気づきました。特に、2022年末にオープンしたsanji teahouseや、今回紹介したWinner Coffee & Teaは、台湾暮らしの長いミャンマー華僑の若者がミャンマー文化を発信するお店を開いた店の例は印象的です。
もう一点忘れてはならないのは2021年に起きたミャンマーのクーデターの影響です。ちょうどコロナ禍で台湾が鎖国状態だったこともあり、クーデター後すぐには台湾へ逃れて来るミャンマー華僑・華人の方はほとんどいなかったようですが、最近では学生の身分で台湾に渡って来るミャンマー華僑や、ミャンマーの少数民族の方が増えているようです。新しく台湾に渡ってきた彼らの存在は華新街にどういった影響を与えるのか、これからの変化にも注視していきたいと思います。
華新街ではミャンマーの民主化を支援するため、有志が毎週日曜日にチャリティー活動を行なっています。場所は華新街50號の騎樓、時間は午前6時頃から12時頃までです。
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