絶滅が危惧される台湾のヤマネコ「石虎」を知ろう | Realm of the Leopard Cat

九州ほどの大きさと例えられる小さな島国である台湾には、多様な生態系が息づいています。先日何の気なしに訪れた台中にある国立自然科学博物館で参観した石虎(タイワンヤマネコ)に関する特別展がとても素晴らしかったのでご紹介します。

 国立自然科学博物館

台中にある国立自然科学博物館

台湾中部の都市、台中にある国立自然科学博物館。その名の通り宇宙や自然科学に関する展示をしている施設です。それだけでなく、人類学や考古学、台湾の原住民族文化の常設展もあるので、幅広いテーマについて学ぶことができます。(人類学関連の展示も素晴らしかったのでこちらも記事にしたい)

入場チケットは数種類あるのでどれを買えばいいのか迷いましたが、博物館の展示を見るなら「展示場」のチケットを買えばOKです。

「石虎的美麗家園」 特別展

一階の第三特展室で2018年の12月26日から行われている「石虎的美麗家園」特別展では、台湾に生息する山猫「石虎 Leopard Cat」に関する様々な知識が散りばめられていました。

展示は
  1. 認識石虎 (石虎について知る)
  2. 石虎在哪裡? (石虎はどこにいる?)
  3. 石虎的家園與夥伴 (石虎の住処と仲間)
  4. 永遠消失的夥伴 (永遠に失われた仲間)
  5. 野毛孩的災難 (野生の毛ものの災難)
  6. 幫助石虎和野毛孩們,怎麼做? (石虎と毛ものたちを助けるにはどうすればいい?)

の6つのテーマに分かれています。

※「毛もの」という表現は、たけのこスカーフさんが命名したものを使わせていただきました。

石虎(タイワンヤマネコ)ってどんな動物?

石虎(タイワンヤマネコ)とは、台湾に生息する山猫の一種で、英語名はLeopard Catと言う通り、ヒョウ柄の毛が特徴です。

体重は3kgから6kg。オスの方が若干体格が大きいようです。寿命は飼育環境では12年〜15年で、メスは子供を育て、オスはなわばりを守ります。

現在では生息する個体は1000匹以下であろうと予想され、絶滅が危惧されています。

そもそもこの特別展が企画されたのは、この自然科学博物館にここ5年間で交通事故で亡くなった石虎が20匹も届けられたことがきっかけだったようです。

石虎が文献に姿を表すのは17世紀以降。石虎のもつヒョウ柄の毛皮が取引されていたことが「臺中州觀概」や「高砂族調查書」などに記載されていたようです。

しかし現在では石虎が生息しているのは画像の赤い点の部分のみ。個体数も現象を続けています。基本的には海抜500m以下の林を生息地としています。

イエネコとの比較

イエネコ(アンモニャイト)の剥製

石虎は体重3kgから6kgと言うことは、普通のイエネコとあまり変わらないようですが、毛皮の模様が異なります。

石虎の剥製

石虎はヒョウ柄の毛皮を持っています。


イエネコと石虎の耳の違い

さらに異なるのが耳の模様です。石虎には耳の側面に白い模様があります。後頭部の愛らしさはどちらも変わりません。

石虎の肉球跡のレプリカ
イエネコの肉球(参考資料)

石虎の生息地域は北はシベリア、南はインドネシアのようで、台湾に生息するのは亜種だそうです。いわゆるイエネコは外来種で、家畜化したねこが人間とともに移植してきたのでしょう(このテーマについても詳しく知りたいですね!!!)。



石虎は何を食べている?

野生に暮らす石虎は狩りの名手。生息地域では食物連鎖の頂点に君臨しています。胃袋の中からはネズミなどの小型動物が検出されました。展示室ではそれらのホルマリン漬けや、石虎の💩までありました(しかも拡大鏡でじっくり観察できる)。狩った獲物をそのまま食べるので、獲物たちの毛が💩にそのまま混ざって排出されていました。

獲物を捕えた石虎の剥製

獲物を捕えた石虎の剥製

石虎は海抜500m以下の林に生息しています。適度に開拓された人間の集落の側は格好の生息地で、畑の作物を狙うネズミや鳥などを捕食します。そのため人間にとっては益のある動物です。

石虎と仲間たち

石虎は人間と同じく食物連鎖の頂点に立つ高度の消費者。もし環境が変わり、生態系のバランスが崩れたら生きていけなくなります。
石虎を脅かすのは開発や農薬による汚染、害獣駆除の罠などの人的要因の他に、野生化した野良犬や野良猫の存在があります。

展示によると、台湾には2017年の時点で177万匹の飼い犬と、73万匹の飼い猫がいます。2015年の調査によると野良犬は12万匹、2009年の野良猫は12万匹だそうです。

野生化した野良犬・猫は、石虎の食糧にもなるネズミや鳥、野うさぎ、蛙などを捕食します。野良犬・猫が増加すると、石虎の生息を脅かすことになります。

近年の研究によると、交通事故などで亡くなった石虎は、野良犬・猫の持つ「犬小病毒」に感染している例が多いようです。この病気に感染すると食欲不振や嘔吐、下痢、血便などの症状が発生します。病気による体調不良により、健康体の石虎と比べると交通事故で亡くなる確率は25倍にもなるそうです。

 石虎保護のためのアクションプラン

絶滅の危機に面した石虎を救うにはどうすればいいのでしょうか?

化学肥料や農薬を使うと、植物を食べる小動物の体内に化学物質が取り込まれ、それを捕食する上位の消費者の体内に取り込まれ…と生物濃縮が起こります。こういった被害をなくすために、無農薬や有機栽培の食べ物を選ぶことが挙げられていました。

石虎のマークが入った卵

その他、前述の通り、野良犬・猫が与える影響も無視できません。「TNR(捕獲、不妊手術をして、元の場所に放す)」を行い、路上で暮らす犬や猫の数を増やさない努力をすることも石虎保護のためになります。

この特別展の良かった点

展示の流れがわかりやすく、「台湾には石虎という山猫がいるんだ」という所から、彼らの生態や、絶滅の危機という現状の問題、それを解決するにはどうすればいいのかというアクションプランまでがストーリーとしてまとまっていました。そのため知識ゼロの状態で訪れても、見学を終える頃には石虎についての基本知識が身につきます。

台湾にはもともと2種の原生ネコ科動物が生息していました。石虎の他に、雪豹という大型のネコ科の動物がかつては存在していたのですが、すでに絶滅してしまいました。

特に私は近所の街ねこのTNRボランティアに参加し始めたこともあり、この活動が環境に与える影響の新たな側面を知ることができた点に意義がありました。(台北でTNRをしたところで、石虎の主な生息地である苗栗には関係がないかもですが、この活動が台湾全土に広く伝わることが重要です)

国立自然科学博物館のサイトに展示の詳しい内容が掲載されていますが、実際に展示室に足を運ぶと、石虎の鳴き声を収めた動画や、剥製などをその目で見ることができます。石虎の鳴き声は、イエネコの「シャー」に近い、威嚇をするような声でした。やはり人間を下僕とするイエネコたちは、自分たちの可愛さを熟知しており、どのように鳴くと可愛いか、人間を思い通りに動かすことができるかを計算しているなと感じます。このように、ねこと共に暮らす貓奴や、ねこと距離の近い生活をしている人にとっては、イエネコと野生のねこの違いを感じられて楽しめると思います。

台湾の民衆と石虎

この記事をアップした後にTwitterの反応をみていたら、こんなツイートを見つけました。


石虎は絶滅の危機に面していることは展示でわかったけれど、もっとも多くの石虎が生息している台湾北西部の苗栗県では、石虎の保護を巡って政治問題にもなっているようです。

軽く台湾メディアの報道を調べてみただけでも、2019年7月だけでも数件の石虎死亡事故の報道が見つかりました。特に危険視されているのは交通量の多い140県道で、道路に迷い込んだ石虎が轢かれるケースが多いようです(2019年7月8日報道2019年7月14日報道)。そのほか、害獣駆除用の罠にかかって後ろ足と尻尾が壊死してしまった石虎を仕方なく安楽死させたケース(2019年8月1日報道)や、首輪をつけた猟犬に襲われたという報道(2019年7月22日報道)も見つかりました。

苗栗県は今後500万元の予算をとって石虎の生息数などに関する全面的な調査を行うことを決定しています。しかし積極的に石虎を保護していくための自治条例は、2019年6月の苗栗県議会で二度目の却下をされています(2019年6月4日報道)。


「石虎的美麗家園特別展」 国立自然科学博物館
▶︎住所:404台中市北區館前路1號 展示場内第三特展室 (map)
▶︎開館時間:9:00~17:00(月曜・旧暦大晦日などは休館。夏休み・冬休みは月曜も開館)
▶︎チケット:展示場は一般100元、学生70元、6歳未満無料など
▶︎特別展公式サイト


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