![]() |
台湾に住み始める前から基隆は旅行で何度も訪れました。最初に食べたカニのとろみスープとおこわに感銘を受け、何度も廟口夜市に通いました。その頃から基隆=廟口夜市のイメージはブレず、そこ以外にはなかなか足が向きませんでした。
そんな私の基隆イメージに新たな側面を見せてくれたのが以前の記事で紹介した沙茶カレー麺なのですが、この度さらに新たな基隆イメージが加わりました。
それが「喫茶店の町・基隆」です。今回は中でも70年代~80年代に創業し、今でも営業している老舗喫茶店を紹介します。
喫茶店の町・基隆
昭和に入るとコーヒー文化も基隆に上陸。1936年には18軒の喫茶店が基隆で営業していたようです。しかしこの頃の喫茶店というのは女給さんがつく西洋風の高級店で、庶民がふらりと立ち寄る店ではありませんでした。
戦後1950年代を代表するキーワードは委託行と米軍です。朝鮮戦争やベトナム戦争が起こった時代、1954年に中華民国(台湾)とアメリカは米華相互防衛条約を結び、台湾のいくつかの地域がアメリカ軍兵士たちの休暇スポットとなりました。
基隆や台北、高雄にもアメリカの兵士が休暇に訪れるようになったため、これらの地域には米軍向けのバーやカフェなどの娯楽施設が生まれました。
(台北の中山北路にも米軍向けのクラブや教会があり、この辺りは現在フィリピン街になっています)
崁仔頂漁市(https://t.co/HUFBeqUgJn)の路地裏は飲み屋横丁のよう。戒厳令や冷戦の頃は外国の物が入って来にくかった台湾だが、この辺りはアメリカの軍人が持ち込んだ舶来品を売る委託行がひしめいていたそう。一度は賑わいが落ちぶれたものの、2020年からイベントを行うなどして活気を取り戻している pic.twitter.com/IaJj5wCzR6
— amikawa (@amikawa125) May 7, 2024
一方で「委託行」というのは舶来品を取り扱う商店のこと。この当時の台湾は戒厳令が敷かれており、外国からの輸入品はほとんど入ってきませんでした。そんな中、アメリカの兵士から入手した外国の商品などを売る「委託行」という形式のお店が現れ始めました。現在では数を減らした委託行ですが、全盛期には港周辺に数多くの委託行がひしめいていたそうです。基隆は外国の商品や文化が常に近くにある町だったのです。
基隆の町 |
米軍の兵士が利用したこの頃の喫茶店にも女性コンパニオンがつく店はありましたが、そうでない普通の喫茶店は「純咖啡」と呼び区別していたそうです。
さらに60年代に入ると日本からサイフォン式のコーヒーが上陸。台湾中に流行し、一般庶民向けの喫茶店も増え始めました。
残念ながら現在も営業している60年代以前創業の喫茶店はすでになさそうだったため、今回は70~80年代創業の喫茶店を訪れていきます。
70年代の露店喫茶・貴客咖啡
騎樓喫茶の老舗・貴客咖啡 |
一部の富裕層や米軍兵士などだけが通えたかつての喫茶店は姿を消し、70年代から普及したのは庶民向けの喫茶店でした。
![]() |
高架下に作られた半屋外の喫茶店 |
![]() |
深夜1時まで営業している貴客咖啡 |
軽食も提供している |
基隆の喫茶文化を調べていると老闆に話しかけたら、ある冊子を見せてもらえました。これが例の城市博覽會の際に作られたもので、展示を見逃した自分としてはたいへん嬉しい機会でした!
2022年の城市博覧会の際に作られた喫茶店案内の冊子「有一種味道在基隆上岸」 |
基隆の喫茶店発展の歴史年表 |
基隆の喫茶店の1970年代から2015年までの歴史が年表にまとめられていました。1990年以降になるとスターバックスも台湾に上陸し、カフェチェーンも増え現在に至ります。
冊子の巻頭で掲載される貴客咖啡 |
巻頭には貴客咖啡も掲載されていました。
老闆の話によると、この場所では70年代から露店の喫茶店が続いているけれど、店名や経営者は何度か変わっているのだそう。今の店主は定年後にこの物件を借りて貴客咖啡を経営しており、現在20年ほどになるとのことでした。明徳大楼2階にある老舗・上選咖啡
1975年(民国64年)に開発計画が始まり1980年に竣工した3棟続きの商業ビル「明德大樓」には喫茶店や美容院などのショップが入居しています。現在ではやや年代を感じる佇まいになっていますが地元の人に愛されるお店が多く、人の出入りは絶えません。
明德大樓 |
![]() |
明德大樓 |
きらびやかなお店が並ぶ外観ですが、建物に足を踏み入れると一気に住宅のような雰囲気の階段が現れます。登って良いのだろうか…と思いながら2階へ向かうと、廊下にショップの看板が立ち並ぶ独特の光景が待ち受けていました。台南の永楽市場と少し雰囲気が似ているかもしれません。
明德大樓2階にある上選咖啡 |
廊下にも喫茶店のテーブルが並んでいる |
明德大樓2階にある上選咖啡 |
シーリングファンが回る落ち着いた店内。
明德大樓の向かいにあるビル |
![]() |
アイスコーヒーとスコーン |
ここに来るお客さんは平日の昼間はほとんど常連さんで、創業からずっと通っている老顧客もいるのだそう。私が利用した土曜の午後にも何人かの常連さんがいて、お客さん同士や老闆娘も交えておしゃべりを楽しんでいました。(初対面の私にも常連さんが「今度トルコ旅行に行くのよ〜」なんて話しかけてくれました)
![]() |
基隆市長・林右昌の著書「想入啡啡」 |
ヨーロッパ風の内装が印象的な夏朵義式咖啡
明德大樓1階の夏朵義式咖啡 |
明德大樓の騎樓にある別のカフェ |
夏朵義式咖啡も80年代頃から続く老舗で、ドリンクの他にラザニアやパスタなどのフードメニューもあり、古き良き喫茶店感があります。
80年代に生まれた簡餐咖啡:橘之堡
![]() |
橘之堡 |
80年代に入ると「簡餐咖啡」というスタイルの喫茶店が登場します。いわゆる簡餐とは定食のようなセットメニューを指し、メイン料理に食後のドリンクとデザートがつくというスタイルです。
この頃の台湾は経済発展の真っただ中。国内のサービス業も成長していた時期で、料理だけでなくインテリアや音楽にまでこだわったタイプのお店が現れました。
鳥巢咖啡
1989年オープンの鳥巢咖啡 |
仁愛市場のたまり場・美品屋
カウンターで店主と常連さんが世間話をしている |
老闆娘によると、美品屋は仁愛市場の中でも最も古くから営業している喫茶店だそうで、もう20年ほどになるとか。
![]() |
仁愛市場2階の美品屋 |
古き良き喫茶店らしいオムライスを注文。台湾の昔ながらの日本料理店ではこういう卵をしっかり焼いたオムライスは定番ですが、中はチキンライスではなくて豚肉を使っているのが台湾らしさだと思います。
騎樓カフェ・亞迪咖啡
創業20年ほどの騎樓喫茶・亞迪咖啡 |
基隆の町では喫茶店や飲食店などが騎樓にテーブルを出し、天気を気にせず一服していける場所がたくさんありました。亞迪咖啡 Coffee AIDもそんな騎樓カフェのひとつです。
常連さんのたまり場といった風情 |
いかにも馴染みという感じの人たちが老闆娘も交えて世間話をしている様。所見ではどなたがお店の方かわからないほどです。騎樓の円卓で新聞を読み、居合わせた人とちょっとお話しする…そんな日常がここにはあります。
![]() |
深夜1時まで営業している |
コメント
コメントを投稿