台湾・戦後の残り香を感じる台北のリトルマニラ(フィリピン街)へ

手作り感のある看板がかわいい

台湾には数多くの東南アジアからの移民や労働者が集まっています。台北周辺にはミャンマー街、インドネシア街、ベトナム街、そしてフィリピン街と呼ばれる移民が集まるエリアが存在しています。

この記事では台北のリトルマニラ(フィリピン街)を紹介します。

日曜日に現れる台北のリトルマニラ(フィリピン街)


圓山の花博公園そば、中山北路周辺はリトルマニラ(フィリピン街)と呼ばれており、台湾で働くフィリピン人たちの仕事がお休みである日曜日にはたいへんな賑わいを見せています。



聖クリストファー教会を中心に、金萬萬名店城というビルの一〜二階やその周辺、雙城公園周辺にはフィリピンのレストランや商店が点在しています。

かつて米軍のために建てられた教会にフィリピン人労働者が集まる

聖クリストファー教会

台北フィリピン街の中心となっているのが、聖クリストファー教会(St. Christopher's Church / 聖多福天主堂)(map)。

戦後の台湾は、1954年にアメリカと米華相互防衛条約を結び、米軍事顧問団が台湾に駐在するようになりました。その際に英語でのミサを行う教会の需要が生まれ、1957年に聖クリストファー教会が設立しました。

ベトナム戦争中には、戦争に赴いている米軍のための療養地として、台湾各地に招待所が作られたそうです。1963年には台北美軍招待所がつくられ、周囲には米軍向けのバーやクラブが立ち並ぶエリアになっていきました。

しかし1979年にアメリカが台湾と断交すると、米軍たちのコミュニティは徐々に衰退していきます。

ミサは英語、フィリピノ語、ベトナム語で行われる

その後、1991年に台湾では外国人労働者を受け入れを始め、主に東南アジアからの労働者が台湾にやってきました。

98年にはフィリピン人労働者も台湾へやってくるようになり、英語でミサを受けることのできる聖クリストファー教会に集まるようになりました。

現在では英語のほかに、フィリピノ語とベトナム語でのミサも行われているようです。


80年代舶来品の殿堂・金萬萬名店城の新しい住人

金萬萬名店城

聖クリストファー教会に並び、台北のフィリピン人コミュニティの双璧をなすのが『
金萬萬名店城』。

1978年に建設され、当時は欧米や日本の舶来品を扱うビルでした。地下にはダンスホールが入り、ブランド品ショップが入居するおしゃれなビルとして、芸能人も通うようなスポットだったそうです。

しかし90年代に入ると台湾にも大型デパートができ始め、金萬萬ビルの人気は下火になっていきます。

金萬萬名店城内部

そんな折、1991年に台湾は正式に外国人労働者の受け入れを開始し、98年にはフィリピン人労働者が現れ、徐々にこのビルにフィリピン人が集まり始めます。

現在では15万人近いフィリピン人が台湾で暮らしており、主に介護や工場などのブルーカラーの仕事に従事しています。

金萬萬ビルを中心としたフィリピン街のお店は、平日には閑散としていますが、フィリピン人たちの仕事が休みになる日曜日には、一帯はたいへんなにぎわいを見せます。

クリスマスツリーが飾られている

一時期閑散としていたビルに東南アジアの労働者が集まりコミュニティを形成する、というのは、台中にあるASEANスクウェアが東南アジア街になった経緯と似ています。

天井も低く古さを感じる建物ですが、日曜日のにぎわいは初めて訪問する部外者を圧倒します。台北のビルの一角に、まさに異文化空間が現れるといった風情があります。

手作り感のある看板がかわいい

英語が通じるのもフィリピン街の特徴の一つです。ここでは英語の看板を見かけたり、見た目がフィリピン人っぽくない客相手には、まずは英語で話しかけてくることが多いです。(中国語もまあまあ通じます)

小さな輸入品商店

金萬萬ビルの二階はエスカレーターを中心に「日」の字レイアウトになっており、それぞれ入居する店舗に小さく区切られています。ここに集まるお店は食堂、美容院、スマホなどのガジェット店など様々です。

基本的に台湾に暮らすフィリピン人は出稼ぎの若者なので、街の平均年齢も若く、活気に満ちています。

観察したり話を聞いてみると、フィリピン人だけでなくフィリピン人華僑もいるのが確認できました。

家庭的な雰囲気のある出来合いの総菜

食堂の手前、通路にまで所せましとフィリピンの総菜が並べられています。持ち帰りだけでなく、その場に用意されているスペースで食べていくこともできます。

フィリピン料理

私はフィリピン料理には詳しくないので、どんな料理があるのかうまく描写できませんが、どうやらバロット(balut)という孵化直前のアヒルの卵もここで食べられるようです。(この記事に載せた画像にも映っています)


フィリピン華僑の食堂THREE TOP

THREE TOP COMMERCIAL

金萬萬ビルの二階をぐるっと回った後、良さそうなお店で食事を取ることにしました。この日利用したのは『THREE TOP』というお店。

"Edmond and Helen Tsai(蔡)"とあるように、お話を伺ったらフィリピン華僑の方でした。

THREE TOP COMMERCIAL

料理の入った鍋の蓋を一つずつ開けながら、気になるおかずを盛ってもらいました。

THREE TOP COMMERCIAL

ナスやゴーヤの野菜系のおかず、イカ、お肉などをいただきました。甘さ、塩辛さ、苦みなどそれぞれの味が主張してきて美味しかったです。タイやインドネシアなどの料理と比べると、スパイスやハーブは控えめな印象でした。


おいしいと評判のプリンを探して

色々なおやつ

当ブログにたびたび登場する参考文献『舌尖上的東協』の筆者、王瑞閔氏の講演を聞きに行った際、フィリピン街のプリンがおいしいという話を聞いたので探しに行きました。



金萬萬ビル二階の通路には数種類のフィリピンのおやつも並んでいます。いかにも東南アジアといったモチモチ系のお菓子や揚げバナナのほか、西洋風のケーキ、ドーナツ、パイなども見かけてワクワクします。

ANGIE'Sさん

「これかな?」と思うプリンがあったのはエスカレーターそばの「ANGIE'S」さん。

ほかにもいろんなスイーツ類が並ぶ中、プラスチックのパックに入ったカラメル色の物体が目を引きました。

スナック類が並ぶ店

カラメルソースがなみなみと注がれたプリン。パックの形状からして、うまく持って帰ることが難しそうだったので、そのお店のスペースでいただきました。

プリン(80元)

ずっしりとしたテクスチャーで、重みのあるプリンでした。カラメルソースは甘みと苦みがちょうどよく、おいしかったです。ただ量も食感も食べ応えが抜群すぎたので、誰かとシェアするのが良いと思いました。

ハロハロもあります

プリンの他にもいろいろなスイーツがあります。ハロハロやカップケーキ、パイなど。持ち帰りに適したものもあるので、少しずつ試してみたいです。



雙城公園そばのCres-Art Philippine Cuisine - 莉山菲律賓料理

中山北路沿いや金萬萬ビルの裏、雙城公園周辺にもフィリピン料理屋が点在しています。私が何度か通っているのは1996年創業のCres-Art Philippine Cuisine - 莉山菲律賓料理(map)
さん。

Cres-Art Philippine Cuisine

元々は金萬萬ビルの裏にあったのですが、2021年の秋ごろに、雙城公園そばに移転しました。店内は広くて清潔、料理も種類豊富でおいしいです。Twitterで知り合ったインドネシア街を研究している方に教えてもらったお店です。

店主は台湾とフィリピンのハーフの方で、時間のある時は気さくにお話してくれます。

Cres-Art Philippine Cuisine

フィリピンやインドネシアの料理には「pancit(扁食・麺のようなもの)」「lumpia(潤餅・春巻きのようなもの)」「chop suey(
雜碎・野菜炒め)」など、華人料理由来の名前が見られるのが面白いです。

Cres-Art Philippine Cuisine

中華由来の料理や、スパゲッティなど西洋っぽい料理など、バラエティーに富んでいるのがフィリピン料理の特徴なのでしょうか。このお店に来ると、毎回何系を食べようか少し悩みます。

Cres-Art Philippine Cuisine

ポークBBQのセット。セットを頼むとごはんと副菜もついてきます。インドネシアやマレーシアのサテとは違い、甘くて香ばしいクセのないBBQでした。

Cres-Art Philippine Cuisine

これは確かビーフの煮込み。少し西洋っぽいイメージのある料理です。



閉店してしまったBURGER QUEEN

移転前のCres-Art Philippine Cuisine - 莉山菲律賓料理のはす向かいにあったお気に入りのバーガーショップ『BURGER QUEEN』。

手作りのハンバーガーやフライドチキンを提供するレストランでした。

ここも数回通ったことがあるのですが、おそらく2021年の春頃に閉店してしまったようです。

アルミホイルに包まれたバーガーには、映画『恋する惑星』のようなロマンがある

なぜか店頭にドラえもんぬいぐるみが大量に飾られており、店内は水色で統一された素敵なお店でした。何よりも映画『恋する惑星』でフェイが勤務していた香港のファストフード店を思わせるアルミホイルに包まれたバーガー、あれにはロマンがありました…。閉店してしまったのが惜しまれます。


フィリピン人労働者に欠かせないお店

送金サービスを取り扱う店

台湾に暮らすフィリピン人は、主に出稼ぎに来ている若い労働者です。彼らが故郷に送金するためのサービスを提供するお店が並ぶのも、移民街らしい光景です。


東南アジアの生活用品もフィリピン街で入手することができます。

今の台湾ではもはやこのような東南アジアの商品を扱う専門小売店は珍しくなくなりました。各地にインドネシア系の『INDEX』やベトナム系の『VNEX』、そしてこのフィリピン系の『EEC』などのスーパーがあります。

ここのEEC(map)は規模も大きく、食品や衛生用品、お惣菜なども扱っています。

終わりに

今回の記事では、台北のリトルマニラ(フィリピン街)形成の歴史と現状をまとめました。

現在台北でフィリピン人が集まる中山北路周辺、この土地はかつてアメリカ軍の集まるエリアでした。

時代の流れとともに米軍は去り、外国人労働者受け入れ体制が整うと、英語で行われるミサを求めて、フィリピン人たちが集まりました。

90年代に衰退した金萬萬ビルは、日曜にはフィリピン人たちの集合場所になっており、故郷の料理を求める人や、ヘアスタイルを整えに美容院に集まる人であふれています。


フィリピン人のコミュニティは出稼ぎの若者が中心であるため、母国への送金サービスがあったり、彼らの仕事が休みである日曜日のみにぎわうという点も、台北駅周辺のインドネシア街と共通しています。


Twitterでは「#台湾にあるフィリピン」で、フィリピン街来訪時にツイートしています。


参考資料



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