2026年の春節休み(2/13/~2/23)にマニラ、ハノイ、インドネシア(ジャワ)へ行ってきました。今回はマニラで体験したフィリピンの中華料理屋と旅社でアメリカを感じてきたお話です。
2026年はマニラへ
台湾考古学クラスタとして2026年といえば、基隆にスペイン人が上陸して400周年、という記念の年です。
1626年にマニラを出発したスペインの船が台湾北部の和平島に上陸し、サン・サルバドル城(要塞)を建設し拠点としました。2018年頃から基隆・和平島で行われた発掘調査ではスペイン人が建てた修道院跡が出土しましたが、現在その現場に文物館を建設中で、近いうち(?)に完成・公開される見込みです。
というわけで今年海外へ行くなら基隆・スペインとつながりのある場所へ行くべきだと思い、マニラ行きを決意しました。
一方でマニラといえば、世界最古の華人街「ビノンド」があることでも有名です。この華人街の建設にも当時のスペインがかかわっています。ビノンドというエリアにはカトリックに改宗した華人や、現地人との混血、華人人口のほとんどを占める福建省泉州晉江出身者、アメリカ統治による影響などの特徴があり、信仰や食文化の面でほかの南洋の華人街とは異なる光景が見られました。
1571年、スペインはマニラに城壁都市のイントラムロスを建設。1582年には中国人の隔離居住地区として、イントラムロスの東側にパリアンを設置しました。
その後、パシグ川対岸のビノンドに1594年に新たに華人街が建設され、世界最古のチャイナタウンと呼ばれるようになりました。
ライトレールをCarriedo駅で降り、ビノンドのメインストリートであるオンピン(王彬)ストリートを目指します。
春節時期ということもあり、オンピンストリートには新年を祝う甜糕 Tikoy Tni-keが路上に大量に積まれていたり、福建語の発音で「恭喜發財 Kiong Hee Huat Chai」と書かれた幟が飾られ、たいへんな賑わいを見せていました。
ビノンドのパンシテリアでアメリカン中華のチャプスイを食べたい
| To Ho Panciteria Antigua |
ビノンドでやりたいことNo.1といえば「パンシテリアでチャプスイを食べる」ことだったので、香港から来たかなちんさんと落ち合い、1888年創業で、フィリピン最古といわれる中華料理レストランのTo Ho Panciteria Antigua(和興)へ向かいました。
To Ho Panciteria Antigua (map)
フィリピンには「Panciteria パンシテリア」と称する中華料理レストランがあります。そもそも「パンシテリア」とは何か?というと、パンシットを売る食堂を表します。ではパンシットとは何かといえば、由来を福建語の麺を表す「扁食 pian sit」もしくは「便食」に持つと言われています。
“Chinese pansietero”
— Google Arts&Culture (@googlearts) January 13, 2022
🎨 José H. Lozano
📅 1847
🏛️ @ArchivosEst https://t.co/mmynxwxaLt#ArtworkOfTheDay pic.twitter.com/D26FCm8KbF
パンシットはスペイン統治時代の華人労働者の食べ物として道端で売られるようになり、パンシテリアは後に中華料理全般を扱う食堂へと発展していきます。
1847年のJosé H. Lozanoの作品「Chinese pansietero」では路上のパンシット売りが描かれており、パンシットが清代の霊芝紋の青花瓷で提供されていることがわかります。
フィリピンではこの麺=パンシットが広く受け入れられており、様々なバリエーションがあるほか、クリスマスなどのお祝いの定番メニューとしても根付いているそうです。
| To Ho Panciteria Antigua |
To Ho Panciteria Antigua(和興)の店頭には、広東系の燒臘店にありがちな叉燒や烤鴨が吊るされるショーケースが並んでいました。福建系が多数を占めるフィリピンですが、広東系の華人も少なからず暮らしているようです。
| ショーケースに並ぶチャーシューや烤鴨 |
テーブルには平皿とスプーン&フォークがセットされており、「お碗&お箸」文化圏ではないことを物語っていました。
| 平皿とスプーン&フォーク |
料理は大・中・小のサイズがあり、人数に応じて量を選べるようになっていました。どのテーブルも中~大人数で来店し、共食をする空間として認識されているレストランのようです。
| To Ho Panciteria Antiguaのメニュー(英語表記) |
一番の目当てはチャプスイ(雜碎 chop suey)なので、それをメインに注文を組立てます。かなりメニューが豊富なのですが、福建とフィリピン、そしてアメリカン中華を感じられるように選んだメニューがこちらです。
| チャプスイ Chop Suey |
チャプスイ(雜碎 chop suey)とは、野菜や肉を炒めて餡かけにした八宝菜のような一品で、19世紀に広東省出身の移民労働者がアメリカで生み出したと言われています。20世紀に入るとアメリカでは中華レストランの定番メニューとなります。
フィリピンは1902年にアメリカの植民地となりましたが、チャプスイはこの頃に普及したと考えられているようです。中国料理店だけでなく、その他のレストランでよく食べられるディアスポリックな一面を持ちます。
1900~1960年代は、アメリカ式中国料理・チャプスイの全盛期で、特に戦後はアメリカ軍のいるところにチャプスイあり、となっていきます。
私見ですが、現在のチャプスイは華人がマジョリティーを占める地域ではあまり食べられておらず、台湾や、台湾のミャンマー華人が集まる華新街でもチャプスイという料理名を見かけることはありません。(似たような餡かけの野菜炒めはなくもないですが)
一方で、インドの中華レストランでは中華料理として認識されているインド化したチャプスイがあったりと、かなりおもしろい料理なんです。
フィリピンのルンピアの語源は福建語の「潤餅 lun bnia」にあるとされる春巻きの仲間です。
ルンピア・シャンハイ(lumpiang Shanghai)は豚ひき肉、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎを入れ、ケチャップやトマトベースの甘いソースに付けて食べる料理で、日本人の想像する春巻きと遠くない食べ物です。
台湾のフィリピン街を散策した経験では、フィリピンには肉入りのルンピア・シャンハイだけでなく、野菜だけを皮で包んで挙げたルンピアや、バナナを入れたものなどのバリエーションがあります。
一方、「潤餅」という名称に注目すると、台湾で伝統的に食べられる潤餅といえば、皮に野菜や豚肉、ピーナッツの粉にパクチーなどを入れて大きく巻いた食べ物です。台湾の潤餅(ルンピア)は揚げていないロール状の食べ物で、特に4月上旬の清明節の時に食べるものという認識があります。
潤餅の皮を焼いているところ。生地をペタっとしてぐるぐるしてクレープみたいに焼くの面白い pic.twitter.com/lIZXXTN1YM
— amikawa (@amikawa125) August 30, 2022
ウォン・カーウァイの映画のような色彩の潤餅屋台でルンピアを入手。お肉やもやし、ピーナッツの粉に香菜と具だくさん#今日の南機場夜市 pic.twitter.com/If3iCgXn5K
— amikawa (@amikawa125) July 5, 2022
| パンシット・カントン Pancit Canton |
最後に店名にもなっているパンシットです。
バリエーションの豊富なパンシットの中でも定番の「パンシット・カントン」を注文しました。見ての通り、餡かけ焼きそばで、町中華のお店で提供されていてもおかしくない風貌です。
海外の中華料理だと、なぜか「カントン」は餡かけのことになっていがちな気がします。
南洋華人の麺料理には米が原料の物と小麦が原料の物がありますが、このパンシット・カントンに使われているのは小麦の縮れ麺でした。
中華料理ファストフードの超群 Chowking
話が前後しますが、マニラに到着後の一食目はChinese-Filipino料理の超群 Chowkingでいただきました。1985年に創業したフィリピンの企業で、パンダエクスプレス(1983~)のようなファストフード化した中華料理をいただくことができるお店です。
Chowking Sta. Cruz (map)
これもまた、華人がマジョリティーを占める地域では見かけないタイプのお店なので、台湾在住の人間としてはぜひ入りたいお店の一つです。(オランダでwok食べたい…!という気持ち)

Chowking 超群
フィリピンの超群 Chowkingでは、メジャーな中華系料理のシオマイ(燒賣 siomai)やシオパオ(燒包 siopao)、ルンピア、チャーハンなどから、フィリピンではどんなレストランにも登場するフライドチキン(超群 ChowkingはJollibeeの傘下)やハロハロ、そしてSweet 'n' Sour pork/chicken/fish(酢豚のような料理)などが食べられます。
悩んだ末にSweet 'n' Sour Chickenを注文しました。エビせんべいがついてくるところに南洋を感じますが、このジャンキーさにはアメリカの風を感じますね。
| Chowking 超群 |
フィリピンの超群 Chowkingでは、メジャーな中華系料理のシオマイ(燒賣 siomai)やシオパオ(燒包 siopao)、ルンピア、チャーハンなどから、フィリピンではどんなレストランにも登場するフライドチキン(超群 ChowkingはJollibeeの傘下)やハロハロ、そしてSweet 'n' Sour pork/chicken/fish(酢豚のような料理)などが食べられます。
ニューヨークの華人街と錯覚する?First Hotel 第一旅社
| First Hotel 第一旅社 |
フィリピンの中華レストランで少なからずアメリカの影響を感じてきたところですが、ビノンドの建物にもどことなくアメリカのチャイナタウンの風情を感じました(アメリカ本国に行ったことはないので想像ですが…!)。
カウンターで応対をしてくださったスタッフの方は数名いらっしゃいましたが、そのうちのお一人が中国語(普通話)を話せる華人男性でした。
マニラの治安が少し心配だったのですが、旅社の入り口に警備員の方がいらっしゃったのも安心ポイントでした。
この旅社のどこにアメリカを感じたのか?というと、部屋の窓から見える風景です。フロアの天井が高い感じや、外壁にバルコニー風の張り出した部分がついているところ。
視線を横に向けると、マーコ・フォッグの部屋から見える「Moon Palace」のネオンが光っていそうな気がしませんか?ポール・オースターの小説「ムーン・パレス」の舞台はニューヨークですが、60年代のチャイナタウンはこんな雰囲気だったのではないでしょうか(という想像)。
春節マニラ華人街ビノンドの第一旅社の窓から見える風景、これよ pic.twitter.com/r4SrJbQBQj
— amikawa (@amikawa125) February 15, 2026
終わりに
世界最古のチャイナタウンといわれるマニラのビノンド。初めて訪れましたが、タイやマレーシア、インドネシアなど、他の東南アジアの華人街とは少し違った印象を受けました。それは植民統治をしていたスペインやアメリカの影響が少なからずあるような気がします。
台湾もフィリピンと同じように、華人は福建系が中心なので、食文化の面で似ている点があるだろうと思っていたのですが、予想していたほどの類似点はありませんでした。パンシットという麺の現地化や、アメリカ中華の影響を受けたチャプスイ、名前こそ同じルーツを持つものの、姿を変えたルンピアなど、かなりフィリピンで独自に変化しているようで興味深かったです。
一方で信仰においてはビノンドには関羽廟や城隍廟などの華人廟や会館がありました。カトリック化していない華人の信仰は台湾とも近い部分はありました。
イントラムロスにはフィリピン華人の博物館や、人類学博物館があり、宋代にも遡る福建華人とフィリピンとの交流史を学ぶことができました。これらもまた別の記事で紹介したいと思います。
参考資料:
- 菅谷成子(2005)スペイン植民地都市マニラ・ビノンドの中国人とカトリック信仰
- 岩間一弘(2021)中国料理の世界史:美食のナショナリズムをこえて
- 宮原曉(2021)ソウルフード以前:フィリピン諸島と福建の間のディアスポリック・チャイニーズの日常的な食
- 清水登之 (1921)チャプスイ店にて
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