【台湾考古学】オーストロネシア語族の拡散:台湾と大洋洲を繋ぐ文化

國立自然科學博物館

台湾に暮らす16の原住民族は、言語学的にはオーストロネシア語族(南島語族)に属しています。彼らオーストロネシア語族は3500年前頃から太平洋に拡散をはじめ、東はイースター島、西はマダガスカル島にまで分布しており、その発祥の地が台湾であるという学説があります。


台湾島が形成され、農耕民がやってくる

台東の卑南遺址公園

「歴史時代」とは、文字による記録が残っている時代を指します。この定義を台湾に当てはめると、台湾の歴史時代はオランダやスペイン、清朝の漢人移民が上陸したおよそ400年前の17世紀から始まります。

ではそれより前には人類はこの島に住んでいなかったのか?ということはなく、人類が生活していました。台湾にも旧石器時代、新石器時代、そして金属器時代に区分される先史文化があります。

國立自然科學博物館(台中)

最初に人類がこの土地に足を踏み入れたのは、5万年前〜3万年前だと考えられており、地質年代でいう更新世の頃にはすでに人類の痕跡があります。更新世は氷河期にあたるため、海水面は今よりも低く、ユーラシア大陸と台湾はつながっていました。その陸橋を通って動植物が陸上を移動してきました。

台湾島の西に浮かぶ澎湖ではホモ・エレクトゥス(北京原人やジャワ原人などと同じ化石人類)の化石も見つかっています。

完新世(1万7000年前〜現在)に入ると海水面が上昇し、現在の台湾島の形が現れます。その後5000年前頃から農耕が華南沿岸から海を渡って伝わり、新石器時代に入っていきます。

しばらくの間、台湾島において農耕文化はさらに繁栄し、地域ごとにいくつかの文化にそれぞれ発展していきます。のちに高度な航海技術を持つ一部のグループはフィリピンなどへ南下していきます。

オーストロネシア語族とは?

國立自然科學博物館(台中)

「語族」というのは言語学的な区分で、同じ系統に属する言語を話す人々のグループを指します。オーストロネシア語にはマレー語やタガログ語、そして台湾の原住民族たちの言語が含まれます。

参考資料
▶︎オーストロネシア語族の広がり

同じ語族に属する人々の言語には、日常で使う基本的な語彙に共通性が見られます。この連続性や分岐を辿って行くことで、最も古い言葉はどこで使われていたかを特定します。

こうした研究手法を用いて、言語学者は広域に分布するオーストロネシア語族の発祥の地は台湾ではないか、と考えています。

また上記のサイトでは、5000年前に中国の揚子江流域から台湾へ渡った人々が祖先、と書かれています。元を辿れば、オーストロネシア語族は華南沿岸を出発し、台湾島へ渡って来たと考えられています。しかし「オーストロネシア文化の起源・形成」に関して、台湾の考古学者 劉益昌は、「オーストロネシアの文化」としての原型は、台湾の大坌坑文化である、と話しています。


オーストロネシア文化の形成:大坌坑文化

言語学的な連続性と同時に、文化的にも同じグループだということを語るには、オーストロネシアの人々はどのような文化を継承していたのかを見ていく必要があります。

國立自然科學博物館(台中)

台湾の考古学者 劉益昌は著書『典藏台灣史 史前人群與文化』の中で、オーストロネシアの文化の原型というべき文化として、新石器時代の大坌坑(dà bèn kēng)文化に着目しています。

5000年前頃から福建や広東など華南沿岸から人々の移入があり、長期に渡る台湾島での発展を経て、オーストロネシアの人々の文化の原型というべき大坌坑文化が形成されました。

大坌坑文化は米や粟などを栽培する農耕社会で、小型の集落を形成し定住していました。主に台湾の西海岸一帯に分布し、年代は6500年前〜4500年前、地域によっては4200年前まで、およそ2000年間続いてきた文化です。

台湾東部の新石器時代の文化・卑南文化

この大坌坑文化を基礎として、台湾各地で地域的な特徴が生まれ、それぞれ別の考古学文化へと発展していきます。

参考文献


オーストロネシア語族の拡散理論

國立史前文化博物館(台東)

オーストロネシアの文化は、大まかに言えば台湾から東南アジアを経てメラネシア、ミクロネシア、ポリネシアへと拡散したと言われています。

ちなみにオーストラリアの先住民族アボリジナル・オーストラリアンやパプア・ニューギニアの人々は別の系統のグループであるため、オーストロネシア語族ではありません。

この拡散理論に関して、言語学、考古学、文化人類学、近年ではDNAを用いた研究など、様々な分野の学者が研究していますが、実は未だ定説というものがありません。

学説の一つである「Out of Taiwan説」(
台湾をオーストロネシア語族の故郷とし、各地へ拡散する)は考古学と言語学の調査から提唱されている学説です。

國立自然科學博物館(台中)

ピーター・ベルウッドや張光直によって提唱されているこの学説によると、5000年前にはオーストロネシア人は台湾からフィリピンへ南下を始め、4000〜2000年前には東南アジア島嶼部一帯に広がりました。

同時に3500年前にはミクロネシアへ、3400〜3200年前頃にはメラネシア一帯まで拡散。およそ3000年前にはサモアへ到達、その後少し時間を開けて、1200年前頃にハワイやイースター島へ、730年前にアオテアロア(ニュージーランド)へ到達したと考えられています。

台湾の考古学博物館では、この学説を採用した展示が多いように感じるので、見学前にオーストロネシア語族の拡散理論について少し知っておくと、博物館が楽しくなるかもしれません。

花蓮縣考古博物館


オーストロネシア語族の拡散に関して、日本語でさらっと読みたい、という方にはジャレド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄(下巻)」がおすすめです。

一方、東南アジアをオーストロネシア語族の発祥の地とする学説などもあります。

参考文献
▶︎臧振華(2012)再論南島語族的起源與擴散問題


オーストロネシア語族の拡散について学べる博物館

国立民族学博物館 みんぱく(大阪)

日本国内では大阪の国立民族学博物館(みんぱく)に、オーストロネシア語族の拡散のマップがあったと記憶しています。

自然科學博物館(台中)
 
台湾では台中の國立自然科學博物館と、台東の國立史前文化博物館に展示があります。アクセスの面を考えると、台中の方が便利でおすすめです。

國立史前文化博物館(台東)

台東には駅の近くに卑南遺址公園があり、発掘調査され保存されている遺跡を見ることもできます。


国立民族学博物館
▶︎開館時間:10:00~17:00(水曜休館)
▶︎住所:〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10−1 (map)
▶︎ホームページ

國立自然科學博物館
▶︎開館時間:9:00~17:00(月曜休館)
▶︎住所:404台中市北區館前路1號 (map)
▶︎ホームページ

國立史前文化博物館
▶︎開館時間:9:00~17:00(月曜休館)
▶︎住所:950台東縣台東市博物館路1號 (map)
▶︎ホームページ


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