台湾で雲南の料理と踊りを堪能!10周年を迎えた2020年の龍岡米干節


台湾北部の桃園には、1940年代後半に中国で起こった第二次国共内戦でミャンマーやタイ北部に逃れた国民党軍が移り住んでできた眷村があります。

雲南出身者の多かった龍岡の眷村は、近年桃園市政府の積極的なプロモーションもあり、雲南の文化を味わうことのできる観光スポットとして発展しています。

そんな桃園の龍岡エリアで2020年9月18日、19日、20日と25日、26日、27日の合計6日間にわたり龍岡米干節が開催され、私はそのうち3日間遊びに行きました。今回はそのイベントのレポートをお届けします。


龍岡や忠貞市場の歴史はこちらの記事:


2020年龍岡米干節の概要


龍岡米干節とは桃園の龍岡エリアで行われているイベントです。雲南出身者の多いこの地区の名物料理の「米干」をテーマに、雲南の食文化や踊り、DIY体験などを楽しむことができます。

別の日に阿嬌米干でいただいた米干

名物料理の米干は米からできた麺の一種です。忠貞市場に数ある米干店ではこのような平たい米麺を手作りしているそうです。

阿嬌米干にて

2011年に始まった龍岡米干節は2020年の今回で10周年を迎え、前半は9月18日(金)、19日(土)、20日(日)の3日間、後半は25日(金)、26日(土)、27日(日)の3日間の合計6日間にわたって開催されました。

会場になったのは台湾鉄道の中壢駅からバスで20分弱のところにある龍岡運動場。戦車や青天白日などが飾られる国民党軍の色が濃い場所でした。


会期の前半は雲南の傣族(タイ族)などの伝統である潑水節(水かけ祭り)、後半は彝族(イ族)をはじめとする多くの中国西南部の少数民族がお祝いする火把節をテーマにしていました。


また、会期の後半には「長街宴」と称して、手抓飯を囲んでいただけるコーナーもありました。

私は前半の18日と20日、後半の25日の合計3日間参加してきました。


参考ページ

雲南・ミャンマー・タイの食文化を楽しむ

暗くなってからステージでダンスパフォーマンスが行われます

会場には大きなステージと、食べ物や民族衣装着用体験などを提供するテントエリア、泰緬孤軍の歴史を展示しているエリアがありました。

食べ物を売るテントがたくさん

両サイドに食べ物を売るテントが並び、真ん中のテントはテーブルと椅子が並ぶ飲食スペースになっていました。


参加した3日ともあいにくの天気でしたが、かなり多くの方が参加しており、お昼時には飲食スペースの席も見つかりにくいほどのにぎわいでした。

米干節に出店する忠貞甩餅

人だかりができていた「忠貞甩餅」は普段は忠貞市場入り口に屋台を出しているロティ(パラーター)のお店ですね!どうやら忠貞市場で営業しているお店が米干節に出店しているようです。

他にも忠貞市場の人気店「阿美米干」も大きなテントで出店していました。


まずは泰式奶綠(タイ風グリーンミルクティー)を入手しました。このお店は他にも摩摩喳喳などタイのスイーツを売っているようです。


雲南ムスリムの方がやっているソムタムのお店。注文したらその場で作ってもらえました。



唐辛子が大量に混ぜ込まれ、本場の辛さだったソムタム。


お店の方は民族衣装のような服装の方が多く華やかでした。


忠貞市場で営業しているお店の他に、○○校友會というミャンマーの学校のOG・OBなどのグループが出店している例も見かけました。

黃飯

真ん中の黄色い食べ物「黃飯」はミャンマーではタミンワーと呼ばれるもので、付属のトマトソースをかけていただきます。


ミャンマーに詳しいしモヒンガーさん(@nangatrp_MM)によると、右のまぜご飯はミャンマーのカチン州で同じような食べ物を見たことがあるそうです。


龍岡米干節では雲南やミャンマー東北部の料理が特に多く並んでおり、「緬甸(ミャンマー)」「雲南」「泰國(タイ)」という看板が目立ちました。


「米干節」と名付けられている通り、米干を売るお店もありますが、それ以外にもミャンマーのビリヤニ「ダンバウッ」などの米料理、雲南やミャンマー東北部の稀豆粉(トーフヌエ)も見かけました。


サモサや春巻きなどのスナック類を売るお店。


こちらのお店はメニューにタイ語が書かれていました。


中国語の名前だけ見てタイのトートマンクンかなと思った蝦餅は、小エビが入ったかき揚げのような食べ物でした。


こちらのたこ焼き機のような鉄板で焼いているのは、タイのカノム・クロッみたいですね。これは食べなかったので正体はわかりませんが…。

左手にトッピングと思われるひよこ豆が置かれています。ひよこ豆といえばちょっとミャンマーっぽいイメージがあります。

ミャンマーのビリヤニ「ダンバウッ」

麻辣洋芋

画像中央の麻辣洋芋は以前雲南省の大理の屋台でよく食べていた味でした。辛さと酸っぱさがあるじゃがいもの料理です。すごく好きなのですが台湾ではほとんど見かけないのです。


参加した3日で食べたのは泰式奶綠、タマリンドジュース、ソムタム、モヒンガー、ダンバウッ、サモサ他揚げ物数種、麻辣洋芋、蝦餅…。お祭り気分を味わえて本当に楽しかったです…!

泰緬孤軍の歴史解説コーナー


龍岡に住む雲南ルーツの人々の歴史を解説しているコーナーがあり、ガイドによる解説が行われていました。


1940年代に中国で起こった国共内戦の際に、雲南省からミャンマーやタイ北部に追いやられた国民党軍のために、1953年に台湾の桃園に龍岡新村や忠貞新村という集落が作られました。


彼ら泰緬孤軍(または異域孤軍)の苦難の歴史はすでに数多くの書籍や映画にまとめられています。

雲南のダンスステージ


夜になるとステージで雲南のダンスパフォーマンスが行われました。演者は地元のダンスグループ「敦青舞蹈團」、婦人サークルや小中学生などで、それぞれ雲南省の少数民族をモチーフにした踊りなどを披露していました。

佤族(ワ族)をイメージした踊り

私が参加した3日間に観たステージは、同じ演目も若干ありましたがほぼ毎回違うダンスが披露されました。

景頗族(ジンポー族)の踊り

後で民族衣装の資料を確認したところ、ステージで見た景頗族(ジンポー族)の女性の衣装は雲南省で着られていた伝統衣装をほぼそのまま再現しているようでした。

景頗族(ジンポー族)の踊り

景頗族(ジンポー族)女性の胸元の金属製の飾りは、体を揺らすとシャラシャラと音がします。

栗僳族(リス族)の踊りを披露する男女

踊りの振り付けは田植えなどの伝統的な生活の動きから作られているそうです。

景頗族(ジンポー族)の扇子を使った踊り

伝統的な振り付けの踊りの他に、コンテンポラリーダンスと少数民族の踊りの融合のような演目もありました。

傣族(タイ族)をイメージしたしなやかなダンス

手抓飯が振舞われる「長街宴」


会期後半の9月25日と26日には長街宴が行われていました。会場には長机がずらりと並べられ、雲南省の宴会料理である手抓飯が振舞われます。(事前予約が必要なようです)

長街宴は満席

手抓飯

みんなが食べているのは手抓飯という手を使って食べるスタイルの雲南料理です。珍しい料理ですが、台湾ではここ龍岡エリアの一部の雲南料理店や、台北の瑪莉廚房などでメニューにあるのを見かけたことがあります。


ステージで彝族(イ族)の踊りを披露していた女の子たちが飴を振舞っていました。

大火把の点火式


会期後半の9月25日〜27日のメインイベントは大火把の点火式です。火把節は雲南のイ族などを始めとした少数民族に祝われる伝統的なお祭りだそうです。

火把節の点火式

景頗族(ジンポー族)の衣装を纏った男女により、厳かに儀式が執り行われます。

火把節の点火式

火把節の点火式

火把(たいまつ)から火把へと火が伝えられ、最後に中央に置かれている大火把に点火されます。

火把節の点火式

大火把


会場は普通の公園でしたが、素晴らしい演出で神聖な雰囲気が生まれていました。

雲南文化の継承


龍岡新村・忠貞新村は雲南からミャンマー・タイに追いやられた国民党軍と軍属のために1953年に作られた集落です。移住当時は男性は雲南出身者が多く、雲南の少数民族の女性と結婚しているケースもあったと言われています。そのため龍岡には雲南の少数民族にルーツを持つ人がいるようです。

例えば忠貞市場で阿美米干などの人気店を経営している根深企業有限公司は雲南の漢人の男性とリス族の女性の夫婦が始めた、とあります。


おそらくステージで雲南の少数民族の踊りを披露していたのが全てその民族出身の人々だったわけではないでしょう。

とはいえ台湾にもそのルーツを持つ人々がいて、伝統文化をこのような形で継承していることや、観光地として発展させて龍岡という土地の特色を広く伝えている点が興味深いと思いました。

会場にはミャンマー式の仏壇もあり、お坊さんの姿も見られました

文化というのは食べ物や踊りだけで構成されているのではなく、言語や信仰など生活の様々な要素を含みます。実際に現在龍岡に暮らす人々は雲南の文化をどのように継承しているのでしょうか。

例えば雲南話や少数民族の言語の継承のための語学教室はあるのでしょうか。信仰の面では龍岡モスクを中心に雲南ムスリムの方は古くからの信仰を守っているようですが、そのほかの宗教ではどのように実践されているのでしょうか。とても気になります。


龍岡米干節の会場では、ミャンマーの学校の校友會の人たちが和気藹々としていた姿が特に印象に残っています。彼らの年齢とミャンマーで初等〜中等教育を受けていたことを考えると、台湾へ渡って来たのはここ2〜30年ほどのことなのかもしれません。

1954年の泰緬孤軍の台湾への引き上げ以外にも、ミャンマーやタイ北部に住んでいた華人たちが移住してくることがあったということでしょうか。

新北市のミャンマー街

龍岡と似た背景を持つ新北市のミャンマー街(華新街)でも、1960年代から起こったミャンマーから台湾への大規模な移民のほかに、21世紀に入ってからも台湾に暮らす親戚を頼ってのミャンマー華人の移住は途切れていないという話を聞きます。

このように、新しく雲南・ミャンマー・タイ北部の背景を持った人々が龍岡へ渡って来ることも、龍岡の雲南文化を後世に伝える動力になっているのかもしれません。

終わりに

忠貞市場そばの名物スポット・国旗屋

龍岡米干節は観光イベントとしての趣が強く、雲南・ミャンマー・タイの食べ物や雲南少数民族の踊りなど、珍しい体験を求めてやってくる観光客を楽しませていました。

2020年は開催10周年だったこともあってか、水かけ祭りや火把節、長街宴などの催しもあり、大変華やかにイベントが行われました。

彝族(イ族)のプリーツスカートをイメージした衣装

桃園市政府は龍岡一帯を「魅力金三角(ゴールデン・トライアングル)」として、雲南文化が特色の観光地として積極的に整備しているように感じます。

米干節の際に忠貞市場そばを歩いていたら、文化園區として整備されつつある空間を見つけました。

古い建物を修復して開放感のあるカフェにしていたり、眷村の歴史の解説ボードが掲載されていたりと、歴史を学べるスポットでありつつ、おしゃれスポットを目指す方向性が垣間見えました。(なんでも映え化させるのは個人的にはちょっと…と思っちゃうタイプ)

ともあれ雲南やミャンマーなどの料理が一堂に会するお祭りはとても楽しかったので、次回の龍岡米干節にも足を運ぶと思います。


(追記)2022年3月に異域故事館がオープンしました

2022年3月オープンの異域故事館

龍岡に暮らす人々「泰緬孤軍」の故事館が2022年3月にオープンしました。一帯は文化園区としてリノベーションされ、龍岡の新しい観光スポットになっています。

2022年4月に実際に参観した時の記事はこちら



台北駅から中壢へのアクセス

國光客運(長距離バス)1818

乗り場:市民大道側の北一門 (map)
運行間隔:10〜20分に一本
乗車時間:約1時間
運賃:大人81元(悠遊卡で支払い可能)

台湾鉄道

時刻表
乗車時間:約40分〜1時間30分(車種によって異なる)
運賃:57元〜89元(車種によって異なる)


龍岡・忠貞の関連記事


ミャンマー街の関連記事
▶︎台湾のミャンマー街のカフェはチャイハネのようだった | 中和華新街形成の歴史と現在


Twitterでは「#今日の忠貞市場」でつぶやいています。

当ブログの文章・画像の無断転載を禁じます。

ask.fm




コメント