通化街夜市にある手抓飯が売りのタイ料理屋「瑪莉廚房 (Mary's Kitchen)」の意外なルーツ


台北には雲南系華人によるタイ料理食堂や、タイからの新住民によるタイ料理食堂があちこちにあります。中でも最近気になっていたのが通化街夜市。この夜市内にはタイ料理屋が数件お店を構えていたり、屋台でソムタム(青パパイヤのサラダ)を売っています。ベトナム料理のお店も数件見られ、東南アジアの方が多いエリアなのかな?と思っていました。



安和路から通化街夜市へ向かっていく道の途中に、瑪莉廚房(Mary's Kitchen)という食堂があります。看板には”手抓飯”と”チェンマイ”が大々的にアピールされていて、「手抓飯はランナー王国のカントークのことなのか?それが台北でも食べられるのかな?オーナーはチェンマイの方なのかな?」と気になっていたんです。

行く前に軽く調べた限りでは、オーナーはタイ華僑とのこと。台湾には雲南出身の華人の方がミャンマーやタイ北部へ移住したのちに台湾へ渡ってくるパターンが多く、そういう方が台湾でタイ料理屋をやっている例がしばしばあります。こちらの瑪莉廚房のオーナーさんはどのようなバックグラウンドの方なのでしょうか。



手抓飯(=カントークというテイで進めます。違ったら教えてください😂)はタイ北部のランナー王国や東北部(イサーン)、ラオスなどで食べられる宮廷料理のスタイルです。数種類の郷土料理を味わうことのできる型式で、私もチェンマイで食べたことがあります。(ちなみに台湾では雲南系華人の多い桃園龍岡や、新北市のミャンマー街の一部の食堂でも提供されています)



今回はソロなのでチキンのカレーを注文。向かいの8人グループがちょうど手抓飯を注文していたのでチラ見できました。お店の方が彼らに「糯米飯」は要るか?と尋ねているのが聞こえました。糯米飯=もち米のこと。ここではカオニャオも食べられるっぽいです。ちゃんとしたタイ北部の食堂という感じですね。

お店の方に聞いたら、手抓飯は人数に合わせて用意してくださるとのこと。なので予約しておけばきっと3〜4人からでも楽しめると思います。

チキンカレーの味付けは少し台湾人向けにアレンジされているように感じました。


冷蔵庫にはシンハー・ビールとチャン・ビールもありました。これさえあれば気分はタイですね!



メニューを見てみると麺類はトムヤムヌードルからパッタイ、ご飯系はガパオや台湾のタイ料理屋でおなじみの椒麻雞、海南雞飯(カオマンガイ)など。気になるのは黃薑飯。これは次回ぜひ食べてみたいです。意外なのが水餃や牛肉麵もあること。だいぶ中華化されているのでしょうか?

このメニュー構成を見た感じ、台湾でよくあるタイプのタイ料理屋と一見変わらないようでした。決定的に雲泰料理と言えるような、例えば過橋米線や碗豆粉、大薄片などは扱っていませんでした。となるとオーナーさんは雲南系ではないのか?と推測が進みます。

瑪莉廚房のバックグラウンド


食べ終わってさっそくお店の方に尋ねてみると、ここのオーナーは華僑の旦那さんと、タイ人の奥さんが開いたお店だそうです。お話を聞かせてくださった方はその息子さんに当たる方。話によると、お店をはじめて50年にもなるとのこと!


なるほど確かにお店の壁には政治家や有名人のサインがずらり。老舗の風格を漂わせています。中には78年(民國78だとすると、1989年)のサインも。かつてはもっと古い時代のサインもあったそうですが、さすがに退色してしまったそう。



バラエティ番組で見かける有名人の写真も飾られています。台北市長の柯文哲も来店したことがあるそうです。



創業50年近い老舗とはいえ、台湾での最初の住所はここではなく公館だったそう。お店の名前も瑪莉廚房ではなく、泰國小館とのこと。

って、「泰國小館」って台湾大学の近くにある台湾で一番古いというあの有名店?!現在は公館の泰國小館の方はお姉さんが経営されているとのことでした。まさか泰國小館と瑪莉廚房が同じオーナーのお店だったとは驚きでした。


(公館にある泰國小館。台湾大学の関係者なら行ったことのある人も多いはず)

さらに尋ねてみると、お父さんは華人だとおっしゃっていましたが、出身はモンゴルとのこと。雲南からミャンマーやタイ北部へ移住する華人の話はよく聞きますが、モンゴル(内モンゴルなのか?)出身の華人がタイ北部→台北というルートを辿っている例は初めて聞きました。


東南アジア華僑と台湾のタイ料理食堂の関係


帰宅して『舌尖上的東協』をめくって確認してみました。(253ページより)
1978年,台灣目前營業最久的泰式料理餐廳也選擇在公館汀州路展業。
1970年代末期,除了越南華僑外,還有不少泰國華僑、緬甸華僑也來到台灣。
1974年,原本滯留在美斯樂的泰緬孤軍周名揚,帶著妻女馬桂美與周瑪莉買假護照來台。幾年後,原本在美斯樂就是經營餐館的馬桂美,決定繼續在台灣擺攤賣泰北河粉等小吃,正巧女兒周瑪莉於美斯樂興華中學的學弟在台大讀書,知道當時學校裡有許多泰北來的學子,而公館又位在台北到中永和與新店的必經之處,於是馬桂美於水源市場旁經營小攤子起家,到後來在汀州路成立兩層樓的泰國小館,一路堅持販賣來自美斯樂的道地泰式料理。
この記事はこちらでも読むことができます。
▶︎《舌尖上的東協》(上):那些座落在全台各地的東南亞街,你去過幾個?

これによると、泰國小館が創業したのは1978年のこと。泰國小館は台湾で最初にできたタイ料理食堂で、住所は台湾大学のお膝元・公館の汀州路(今も同じ汀州路にお店があります)。



タイ北部メーサロンに撤退した国民党軍(泰緬孤軍)の一人であった周名揚さん。妻の馬桂美さんと娘の周瑪莉さんと共に、1974年に彼らは台湾へ渡ります。妻の馬桂美さんはメーサロンでも飲食店を経営していたこともあり、台湾でまずは屋台でタイ北部の麺料理を売るところから商売をはじめました。

当時公館という場所を選んだのは、台湾大学に通う華僑学生が多かったため。ちょうどミャンマー華僑の多い永和や、中和の華新街(ミャンマー街)へ行くにも通り道になるエリアで、タイの味を恋しく思う華僑学生たちの間で口コミで評判が広まって行ったようです。

上の人物名を見てみると、娘さんの名前は「周瑪莉」さん。瑪莉廚房は、お店のメインシェフを務める瑪莉さんの名前を冠した店名のようですね。






【補足】60〜70年代の頃に東南アジアの華僑が数多く台湾へ移住してくるという波がありました。中和のミャンマー街もこの流れを汲んでいます。

ミャンマー街についてはこちら



通化街夜市で、手抓飯を売りにしているというちょっと気になる存在だった瑪莉廚房。今回の訪問で、台湾で一番古いタイ料理屋の同じオーナーさんのお店だということがわかりました。


台北には他にも雲南ムスリムの方や、結婚移民などで台湾へ移住したタイ人の方が経営するタイ料理屋があります。一つ一つそのルーツを辿って行くと、面白い発見があるかもしれません。



瑪莉廚房(Mary's Kitchen)

住所:台北市大安區安和路二段69巷22號 (map)
Facebook:瑪莉廚房




次の記事では台湾におけるタイ料理屋の歴史を概観しています。タイ華僑や雲南系、タイからの移民など、台湾の現代史の一側面を垣間見てみませんか?




泰緬孤軍の眷村があった桃園龍岡にも、多くの雲南系華人のコミュニティがあります


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