台北モスクの金曜ハラールマーケットで異国グルメを楽しむ


台北モスクでは毎週金曜日のお昼にハラールマーケットが開かれており、様々な異国料理が売られています。今回は台湾におけるイスラムの歴史を軽く振り返り、ハラールマーケットで売られていた異国グルメを紹介します。

戦後に増えたムスリムのために建てられた台北モスク

台北グランドモスク外観

台北市の大安森林公園の向かい、新生南路沿いに台北モスク(台北清真寺)は建っています。1958年から建設が始まり61年に完成したという、まだ歴史の浅い建築です。

台湾では第二次世界大戦後、国民党と共に中国大陸からイスラム教を信仰する人が台湾へ渡り、モスクが求められるようになりました。台北では当初は永康街に近い麗水街の日本家屋がムスリムたちの礼拝所として使われていましたが、後に手狭となり、現在の台北モスクの建設が始まりました。




台湾におけるイスラム文化史を紐解くと、台湾に渡った最も初期のムスリムは明代にさかのぼります。彼らは台湾西海岸中部の鹿港などに上陸し、イスラム教の信仰を実践しつつ暮らしていたようです。


今では外観はすっかり道教の廟となっている鹿港の保安宮は、かつて台湾で初めてのモスクだったと言われています。しかし少数だったこの時代のムスリムは、次第にイスラムの慣習が薄れ、歴史の中に消えていきました。

その後、中国で国共内戦が起こった1949年には中国から国民党政府と共に多くの華人が台湾へと撤退してきます。その中には華人のムスリムも含まれていました。国民党と共にやってきたムスリムの省籍は多様ですが、中でも雲南にルーツを持ち、タイ北部やミャンマーに暮らした背景を持つ華人ムスリムの存在を、現在の台北モスクに集まる人々の中にも見つけることができます。

台北モスク:アラビア語と中国語での表記(清真寺は中国語でモスクの意)

台北モスク:左右に円柱型の2本のミナレット、中央にドームをいただく

一方で、1990年代以降には台湾は外国人労働者の受け入れを始め、モスクを利用する顔ぶれにも変化が現れました。工場や介護士として働くインドネシア人を始め、中東やアフリカ系の住民の姿も台北モスクで見かけることができます。

1996年には台北市の市定古蹟に登録された(建築家は圓山飯店と同じ楊卓成)

ロマネスク様式から取り入れられたアーチの並ぶ回廊


金曜のハラールマーケットへ

台北モスクのハラールマーケット

金曜日の正午にはイスラム教の特別な礼拝「ジュマ(主麻)」が行われ、それに合わせて台北モスクではハラールマーケットが開かれます。マーケットは毎週金曜日の10:00から14:00まで開かれ、途中12:00からは礼拝のため30分ほど休憩となります。

マーケットではハラールの肉や総菜などが販売されています。ここでブースを出しているのは雲南系タイ・ムスリムの泰皇小館の方や、雲南系ミャンマー華僑の方といった華人のムスリム。日によってはエジプト人などのブースも見かけました。とはいえ規模の小さなマーケットであるため、出ているブースも3~5店舗程度というささやかなものです。


華人であり、ミャンマーやタイに背景を持つ台湾のムスリム

ミャンマー式ビリヤニの「ダンパウッ」

雲南にルーツを持ち、タイ北部やミャンマーに移住した華人と言えば、国共内戦を戦った「泰緬孤軍」の存在が思い出されますが、1980年代以降にもミャンマーに暮らす雲南系の華人がより良い生活を求めて台湾に渡るケースが少なからずありました。

このような雲南系ミャンマー華僑は新北市中和区の華新街(通称ミャンマー街)や、台北市新北市の様々な地域に暮らしており、数は多くないものの、ムスリムの食堂なども存在しています。こうしたルーツを持つ華人ムスリムが、台北モスクで開かれるハラールマーケットにも出店しています。

ハラールの水餃子

ミャンマー式ビリヤニ「ダンパウッ」

華人ムスリムの方のブースでは、ハラール対応の鶏肉や牛肉で作られた水餃子のほか、ミャンマー版ビリヤニの「ダンパウッ」やサムサ(サモサ)、蜜のかかったクッキーのような焼き菓子「清真餅」やハラール対応の中華弁当などが売られていました。

コロナ禍に店を閉めてしまった泰皇小館さんも、今は金曜のハラールマーケットで姿を見ることができるので嬉しいです。

在りし日の泰皇小館(臺電大樓そば)

泰皇小館さんのサムサやお弁当

泰皇小館さんの所で清真餅とサムサを購入

この日は泰皇小館さんの所でタマリンドソースの付いたサムサ、清真餅、もう一つのミャンマー華僑ムスリムの方のお店でダンパウッを購入しました。

この日の購入品



礼拝に集まる人々

金曜の特別な礼拝「ジュマ」

ハラールマーケットで食べ物を購入し、お店の方とお話をしていると、部屋にどんどん人が増えてきました。礼拝が始まる時間のようです。

礼拝に集まるのは台北や周辺に住むムスリムたち。姿を見ると、中東系やアフリカ系の方の比率が高い。

礼拝の時間を知らせる時計

中央の礼拝室だけでは空間が足りず、他の部屋にも人が集まる

モスクの案内の方の話によると、会社勤めのムスリムは仕事を抜けてモスクを訪れ金曜の礼拝「ジュマ」に参加しているそうです。礼拝のために抜けた時間は、別の時間に残業をするなど対応しているとのこと。こうして金曜の日中に礼拝に訪れるのは中東やアフリカ系の方が多いとか。

一方、在台のインドネシア人は、工場や介護といった労働環境の特性や、学生という身分の方が多く、彼らにとっては金曜昼にモスクを訪れるのはハードルが高いそうで、インドネシア人の姿が多いのは彼らの仕事が休みとなる日曜日だそうです。

華人のイマーム

礼拝室の外にも人があふれる


二階は女性用の礼拝室になっている


金曜の礼拝には多くのムスリムが集まる

金曜の特別な礼拝「ジュマ」にはかなり多くのムスリムが集まり、モスクの大ホールだけでは空間が追い付かず、左右の部屋や、入口の外にまで人が整列しているほどでした。


礼拝が終わり、交流の時間に

ミルクティーを提供する方

礼拝が終わり、モスクの入口では無料でミルクティーとダール(豆のスパイス煮込み)が配られており、人だかりができていました。

ミルクティーは誰でもいただくことができる

礼拝を終えた人たちはすぐには解散せず、ミルクティーやダールを手にしばし交流を楽しんでいるようでした。

豆をスパイスで煮込んだダールを配る方

ミルクティーをいただきながら話をうかがう


終わりに

チャリティーのミルクティーとダールに並ぶ人々

台湾社会ではイスラム教徒はマイノリティーですが、金曜の礼拝の時間にモスクを訪れると「こんなにもたくさんムスリムの方が暮らしていたのか」と驚くほどでした。

金曜のハラールマーケットでは食べ物を売る華人やエジプト人のムスリムの姿が見られるほか、礼拝には出身地の様々なムスリムが訪れ、台湾におけるイスラム教の発展と民族的多様性を垣間見ることができます。

礼拝の時間を外すと、モスクはとても静か

台北モスクでは外部の人間向けに見学ツアーも開催しており、ムスリムでなくとも建物内部を参観することができます。ぜひ台北モスクを訪れて、台湾のムスリム社会を覗いてみてください。




台北清真寺のハラールマーケット
  • 住所:台北市大安區新生南路二段62號(map)
  • 開催時間:毎週金曜の10:00~14:00
  • アクセス:MRT赤線「大安森林公園」駅から徒歩10分


参考文献

  • 賈福康 台灣回教史
  • 趙錫麟、張中復 主命的傳承裕延續 回教在台灣的發揚和展望

参考サイト、ページ


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