國立歷史博物館で戦後台湾「中華文化復興運動」の雰囲気を知る


戦後台湾では、1970年代頃まで国民政府による中華文化復興運動が盛んに行われました。正統な中華文化の継承者であることを示すべく、宮殿式建築が台湾各地に作られたほか、文物のレプリカを海外で展示しアピールしました。

台北にある国立歴史博物館ではその頃の空気を今も感じることができます。






台北で中国歴代王朝の宝物を見学したいと考えた時、まず足が向くのは故宮博物院だと思うのですが、台北植物園のそばにある国立歴史博物館も故宮に似たコレクションを持っています。

今回は国立歴史博物館のコレクションのなりたちや、中華文化復興運動との関係、国民党時代の文物外交など、戦後中国共産党との対立を深めていた時期のお話です。

國立台灣工藝研究發展中心 臺北當代工藝設計分館(旧・国立科学館)

国立歴史博物館(以下「歴博」)は日本による植民統治が終了し、国民政府時代になってから初めて作られた博物館です。

1955年、台北植物園のある南海路に「国立歴史文物美術館」として歴博は生まれました。もともとこの場所には日本統治時代の総督府殖産局商品陳列館という二階建ての木造建築があり、当初はその建築を用いていました。

歴博開館当初はまだなんの所蔵品もない空の博物館でしたが、翌年日本から返還された文物と、河南省博物館から運ばれた文物が移譲され、歴博のコレクションとなりました。1957年には名称が「国立歴史博物館」と改名されました。

国立歴史博物館

その後、1971年から75年にかけて建築の全面的な改築が行われたほか、近年も2018年から建築の修復と常設展のリニューアル工事が行われ、2024年に再オープンしました。



中華文化復興運動時代の宮殿式建築

国立歴史博物館

1950年代初期、国民政府はこの場所を中華文化復興の教育を行う園区にしようと考え、一帯を「南海学園」と名付けました。

南海学園

現在南海学園へ足を運ぶと目の前に飛び込んでくる赤が印象的な建築は「宮殿式建築」と呼ばれる様式のもので、国民政府が目指した中華文化の復興をイメージするものとなっています。

1950年代から60年代にかけて、台湾の各地で正統な中華文化を標榜する古典的な風貌の建築が作られましたが、台北の南海学園には国立中央図書館(1955)、国立科学館(1959)、国立歴史博物館(1964)が中国の古典様式で建てられました。

院藏清代歷史文書珍品:皇家建築圖檔文獻の展示より

院藏清代歷史文書珍品:皇家建築圖檔文獻の展示より

院藏清代歷史文書珍品:皇家建築圖檔文獻の展示より

南海学園(國立台灣藝術教育館)

南海学園(國立台灣藝術教育館)

国立中央図書館(1955)→現在は国立台湾芸術教育館として利用されています。

國立台灣工藝研究發展中心 臺北當代工藝設計分館(旧・国立科学館)

国立科学館(1959)→現在は国立台湾工芸研究発展中心 台北当代工芸設計分館として利用されています。

国立歴史博物館

国立歴史博物館も、中華文化復興運動の最盛期である1964年に古典様式で建てられましたが、その後70年代に改築されて地下一階、地上六階の現在の建物に改築されました。

国立歴史博物館

宮廷風の庭園や涼亭も付属しています。

国立歴史博物館

国立歴史博物館


正統中國を標榜する:文物箱による文化外交




中華文化復興運動は建築というハード面だけでなく、文物によるソフト面も国民政府の正統性アピールも行われました。

文物箱に関する展示(2025年)

「中華文物箱」という、中国歴代王朝の宝物のレプリカなどを詰めた箱を海外に送り、展覧会を行うという文化交流政策が、1969年から86年にかけて行われました。

文物箱交流は、アメリカとベルギーの大使館に10箱が送られた第一回を皮切りに計5回行われ、回を増すごとに文物箱の数と、送り先の国の数は増えていきました。

文物箱

文物箱政策が行われたこの時期には1971年の中華民国の国連脱退や、79年のアメリカとの断交があり、国民政府にとっては正統な中華文化の継承者アピールや、世界各国の華僑からの支持獲得が非常に重要な焦点でした。

文物箱


2026年7月現在、文物箱に関する展示は行われていませんでしたが、常設展で動画が上映されていました。

1980年代以降は台湾は本土化政策に転向し、文物箱の政策は終了しました。


河南博物館のコレクションと、戦時中に日本が略奪した宝物

2024年リニューアル後の常設展

前述の通り、戦後に新しく作られた歴博には、当初コレクションはありませんでした。翌年に河南博物館から台湾に避難させた文物と、戦時中に日本が中国で略奪し戦後に中華民国へ返還された文物が歴博に移譲されました。

どちらも戦争によって本来の土地からひき離されてしまった文物が、台北に集まっているのです。

唐三彩

コレクションには故宮博物院にも劣らない中国のやきものや青銅器があります。私は詳しくないのですが、中国画や東洋の画家によるモダンアートなどにも力が入っているようです。

唐三彩

唐三彩

故宮博物院では人ごみのなかでチラリとしか見られないような唐三彩も、じっくりと鑑賞できます。

イスラムのガラス(大食玻璃)

東溪窯 日神像

歴博で私のお気に入りは広東省東渓窯の月神像です。やわらかくすっきりとした曲線と、釉薬により丁寧に色付けされた衣装がとても美しいです。

東溪窯 月神像

東渓窯は日用的な碗も生産しており、台湾でも清代の遺跡から東渓窯の青花瓷などが出土するので名前には馴染みがあるのですが、このような神像は台湾ではおそらく出土していません。

東溪窯 月神像

常設展入口

常設展

303室は常設展ですが、時々内容が少しずつ変化するようです。基本的には新石器時代から青銅器時代、そして清に至るまでの文物が展示されています。明の永樂帝時期の青花瓷もいいものが並んでいますよ。

新石器時期の土器

新石器時期・廟底溝類型の土器



終わりに

長沙窯

1960年代、大陸中国では文化大革命が進行し中華文化が破壊されるなか、国民政府の中華民国は正統な中国を標榜すべく、中華文化復興運動が盛んに行われていました。

本来台湾島には縁がなかったはずの中国古典様式の建築が各地に作られたり、戦火を逃れてこの島に運び出した歴代王朝の宝物のレプリカを海外へ送り、文化外交が行われました。

この時期の重要な政策の担い手であり、当時の空気を残しているのが台北の国立歴史博物館です。中国の文物に興味のある方はぜひ訪れてみてください。

ミュージアムカフェ「荷悅餐廳」から植物園の蓮池を臨む





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