Made in Thailandに隠された両岸関係:70年代の景徳鎮と台湾

70年代景德鎮Made in Thailand青花碗

2019年11月に台南の茶荘でたまたま見つけたちょっと古い青花杯。


裏に「Thailand」と書かれた茶杯

裏に「Thailand」と書いてあるのが珍しく、安かったのでとりあえず購入して帰宅しました。その茶荘のオーナーさんはあまりこれについて詳しくはないようでその時には詳細はわからなかったのですが、約1年越しにこれには意外な意味が隠されていることを知りました。

台南の茶荘で見つけた古い青花杯

購入時のツイート。これがフラグになるとは…

今回はこの「Made in Thailand」に関してわかったことをシェアしたいと思います。


宜蘭碗盤博物館へ


宜蘭には碗盤博物館という、台湾の1950〜60年代のお皿やお碗などを中心に収集している私立博物館があります。この博物館の存在はそこはかノートさんで知ったのですが、今回やっと現地に行くことができました。

碗盤博物館には展示の他に、台湾の古いお皿やお碗を販売しているコーナーがありました。そこで見覚えのある文様の入った湯のみを見つけました。

筆で描かれた流れるようなこの文様…見覚えがあるぞ…

手にとって裏を見てみるとやっぱり!裏には「Made in Thailand」と書かれているではありませんか!

裏には「Made in Thailand」の文字が

家にもある茶杯の仲間が見つかったことに嬉しくなりレジに持っていき、あわよくば…という気持ちで博物館の方にこれに関する詳細を尋ねてみました。

するとこれは70年代以降に作られたものであることや、その背景にある物語を教えてもらえました。


70年代、中国の文革と台湾の戒厳時期

1970年代といえば台湾は戒厳令の時代、中国大陸は文化大革命の時代です。この頃の台湾は中国からの物資の輸入は禁じられていたこともあり、台湾では内需向けに日用品の生産が行われていました。

台湾で生産された5〜60年代の陶器(博物館の展示品)

碗盤博物館にこんなに多様なこの時代の台湾生産のお皿やお碗があるのも、そもそもこういった時代背景が関わっていたようです。日本統治時代から続く台湾の北投、鶯歌、苗栗や南投などの窯元で陶器生産が行われ、人々はそんな台湾製の食器を使っていました。

景徳鎮の銘が入った杯

当時の台湾でもし中国の陶磁器を輸入しようものなら、税関で没収になったそうです。例えば裏に「景徳鎮」の銘が入っていたらすぐにバレてしまいます。

中国の景徳鎮の磁器は高品質であったため、商人はなんとか景徳鎮の磁器を台湾に輸入できるよう画策しました。

そこで初期に取られた対策が銘の部分を塗りつぶして隠してしまうというもの。

銘の部分を塗りつぶしたタイプ

碗盤博物館の方が実物の商品を見せながら解説してくださいました。この小さな茶杯は裏の部分が塗りつぶされており、爪でこすると中から景徳鎮の銘が出てきました。


Made in Thailandという銘

銘を塗りつぶすタイプの次に登場した方法が、生産地を偽装するというもの。

「Made in Thailand」の銘が入った大碗

もうお気づきでしょうか。そう、この「Made in Thailand」は実際にはタイで作られたものではありません。景徳鎮で作られた輸出用のお碗(外銷瓷)だそうです。

中国からの輸入品であることを隠すために、敢えてタイ製の商品であるように銘を入れ、わざわざ中国からタイを経由して台湾に輸出されてきたのだそうです。

「Thailand」の銘入りの茶杯

そうしてしばらくは「Made in Thailand」銘が入った景徳鎮の焼きものが台湾に入ってきたようですが、ずっと同じ手法だと税関に怪しまれることを警戒し、他の国の名前を入れるパターンも出てきました。

それがこちら。「ITALY」の文字が入っています。これは売り物ではなく個人的なコレクションのようです。もちろん本当はイタリア製ではありません。

「ITALY」の銘入りのお碗

じっくり見ていただくとわかるかもしれませんが、このお碗には透かしが入っています。胎と釉薬のバランスが技術的に難しく、こんな高品質な磁器を作れるのは当時は景徳鎮くらいのもの。もし骨董屋などで見つけたら私もぜひ入手したいものです。


購入品紹介

大碗、青花茶杯、粉彩茶杯

博物館の方のお話を聞いたあと、大碗の他に「Thailand」の銘が入った青花杯と、粉彩の茶杯を購入しました。

正面から見た図

青花杯の文様は現在でも食堂のお皿に使われているモチーフだと思います。今だと素材はメラミンだったりしますが、文様は健在です。

粉彩の茶杯は清代の官窯っぽいものの模倣品という感じ。こちらの銘は普通に景徳鎮と入っています。色が綺麗で南洋っぽさも感じるものです。

大碗の文様は筆で描かれた流れるような何かが描かれています。一体なにがモチーフなのかは現時点では不明です。何か元のモチーフが崩れてこれになったのでしょうか。

台南で入手した茶杯と宜蘭で入手した大碗

去年台南の茶荘で入手したものと、今回入手した大碗。どちらも「(Made in) Thailand」の銘が入っているものです。

Made in Thailandの景徳鎮

裏にはどちらも「Thailand」。タイ製であるように見せかけています。

青花茶杯の文様部分

青花杯は台湾の茶藝館などでもよく使われている小ぶりのもの。磁器ならではの薄さと軽さが売りです。私は実用ではなく観賞用として入手しましたが…。

粉彩茶杯の文様部分

粉彩の茶杯。書かれている文字は「壽」「萬」「疆」「無」の四文字。輪郭線はプリントっぽいけど、色は手塗りのようにも見えます。グリーンの釉薬の部分に少しずつムラと凹凸があります。

終わりに

銘を並べてみたところ

中国との通商関係がない時代にも、このような密輸を通じて景徳鎮の焼きものが台湾に入ってきていたというお話でした。

特定の時代に目的を持って作られた「Made in Thailand」の銘が入った景徳鎮の磁器。台湾と中国の緊張した関係が垣間見えるような、隠された歴史を感じることができる物語でした。

なぜ70年代以降の輸出用景徳鎮が大量に碗盤博物館にあったのかというと、当時税関で没収されたものなのか、一括で保存している方がいたようで、碗盤博物館の館長が最近こうした景徳鎮の茶杯や碗をまとめて購入したのだそうです。それが現在(2020年9月)博物館の売店で販売されています。値段はめちゃくちゃ手頃(15元〜)なので、興味のある方はお手にとってみるのも良いのではないでしょうか。





参考資料:
懂車帝 タイトルなし

↑碗盤博物館の方にお話を聞いてから、情報の裏付けを探していた時に唯一見つかった記事なのですが、リンクに問題があるのか、スマホだとサイトのトップページに飛んでしまいます…


内容は以下の引用の通りで、この他写真も掲載されています。

”民國75年(1987)以前,戒嚴戡亂法尚未廢除,台灣政府的法令尚未開放進口景德鎮的外銷瓷,所以大量的中國瓷器其實是經非正式管道,走私進入台灣市場。為了應付海關與警總的查察,甚至要用白漆抹蓋印款才能入境出售。有些利用轉口貿易,變更出產地,以便入關。 這些老瓷器,默默的守護著一段塵封的歷史,讓今人能珍惜現在擁有的幸福。 圖1,用白漆遮蓋紅色「中國景德鎮製」款。 圖2,3,青花ITALY 款碗。 圖4,5,青花MADE IN THAILAND 款碗。 圖6,7,8,青花THAILAND 款鈴鐺杯。”

原文は『戒嚴戡亂法尚未廢除,台灣政府的法令尚未開放進口景德鎮的 ...』でGoogle検索すると出てくると思います。(ただスマホからだとやっぱりサイトのトップページに飛んでしまう…)

他にもこれに関する学術論文などがありましたら教えていただけると嬉しいです!


碗盤博物館
▶︎住所:268宜蘭縣五結鄉西河五路82號(map)
▶︎アクセス:台湾鉄道二結駅から徒歩約15分
▶︎開館時間:9:00~17:00


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