台湾のタイ街?新北市新荘の工業地帯でいただくイサーン料理


台湾にはミャンマー街やインドネシア街などの異国街・移民街があり、一家で台湾に移住したミャンマー華僑や、工場や家庭の介護士として働くインドネシア人・フィリピン人の姿は台湾の日常風景になっています。

しかし同じ東南アジアでありながら、「タイ街」というのは、2022年の現在あまり耳にしたことがありません。果たして台湾にタイ街は存在するのでしょうか?

タイ人労働者が集まる工業地帯へ

台北から自転車で行く場合、二本の橋を渡る

台北市内からMRTで30分弱、新北市新荘区~三重区一帯は中小規模の工場が集まる工業地帯。この辺りの工場で働く東南アジアからの労働者も多く、一帯にはベトナム料理屋やタイ料理屋が点在しています。

MRTオレンジ線の先嗇宮駅で下車し、中興北街を北へ進み、幸福路を歩いていくとタイ文字や赤青白の国旗をモチーフにした看板が見えてきます。


この一帯に集まるタイ料理屋は2022年現在で5軒ほど。40ほどの店舗が集まるミャンマー街と比べると規模は小さく「~街」と呼んでいいのか迷いますが、タイ出身の店主や、そこに通うタイ人のお客さんの姿を見ると、確かにここにはタイ人のコミュニティが存在するんだという事実に気づかされます。

泰式東北小吃のメニュー

お店のメニューはタイ語・中国語で書かれています。お店の人には中国語も通じますが、自分以外はタイ語の世界でした。

台湾でいただくイサーンの味

香蕉泰式料理のラープムー

新荘区~三重区一帯の工業地帯のタイ料理屋のメニューを見ると、パッタイやトムヤムクンなど一般的に知られるタイ料理の他に、タイの東北部イサーン地方の料理の名前が並んでいるのに気づきます。

イサーン発祥で、タイ全土はもとより台湾のタイ料理屋でも定番の青パパイヤのサラダ・ソムタムを始め、ラープやカオニャオ、道路に面した店頭でガイヤーンを焼くお店もありました。

炭火焼の良い香りが食欲をそそる泰式料理小吃店

なぜこの一帯のタイ料理屋ではイサーンの名物料理が目立つのか。どうやら台湾で働くタイ人の70%がタイ東北部のイサーン地方出身なのが理由のようです。

20年前、タイ人労働者人口の最盛期

1990年代に台湾政府は外国人労働者の受け入れを開始し、工場での労働や家庭内で介護を担う東南アジアからの労働者(移工)が台湾にやってきました。

移工はベトナム、インドネシア、フィリピン、タイから台湾へ働きにやってきた人々で、2022年現在ではインドネシア人とベトナム人が最大勢力となっています。桃園、台中、新北が移工が最も集まる都市です。

タイ人は台湾が移工受け入れを開始した当初の最大勢力で、2000年には14万人ものタイ人が台湾の工場などで働いていました。

最もタイ人労働者が多かったのは桃園市で、桃園駅裏や中壢駅周辺にはタイ料理屋や雑貨屋が集まり、タイ街と呼ばれていました。今でも当時から営業を続けている老舗のタイ料理屋があります。




20年前、台湾の給料はタイの3倍~5倍だったため、多くのタイ人労働者を惹きつけていました。しかし今ではタイの経済も成長し、両者の賃金差がほとんどなくなったため、タイ人は台湾を選ばなくなり、台湾のタイ人労働者のコミュニティは縮小傾向にあります。


タイでいただくあの味が台湾でも楽しめる

泰式東北小吃の豚肉のカレー炒め

コロナで海外旅行ができなくなって二年。少しでも台湾で外国の気分を味わいたい…!そんな希望を叶えてくれるのが異国料理のレストランです。

台北には数多くのタイ料理屋がありますが、私の家の近所は雲南系ミャンマー華僑が営業している「雲泰」系のタイ料理屋がほとんど。もちろん雲泰系のタイ料理もおいしいのですが、やはりタイ本国でいただく物とは少し味が違いますし、扱うメニューも少し異なります。

泰式東北小吃

泰式東北小吃

私が初めてこの一帯を訪れた際に入ったのが泰式東北小吃(map)。

この日はスタンダードなタイ料理、カオパットプリックゲーンムー(ข้าวผัดพริกแกงหมู.紅咖哩飯豬肉、90元)を注文しました。ハーブやスパイスの使い方がやはり雲泰系タイ料理屋とは違うのか、よりタイ本国で食べる味や香りに近くて感動しました。辛さも本格的です。

泰式東北小吃の店内

こじんまりとした店内には故プミポン国王のポートレートや、仏教の儀式に使うお金の木などが飾られていました。

泰式東北小吃の隣は宝くじ屋

泰式東北小吃の隣は宝くじ屋。お店の人やお客さんがテレビの経済チャンネルで宝くじの当選番号を確認していてにぎやかでした。

香蕉泰式料理

香蕉泰式料理

香蕉泰式料理(map)は前回のお店よりも広く、タイの食品などの雑貨も扱っていました。

店主はイサーン出身で、このお店は開業して5~6年になるそう。メニューにはポピュラーなタイ料理だけでなく、イサーンの料理も並んでいました。

香蕉泰式料理のメニュー

一回目の訪問ではクリスピーポークとカイラン菜の炒め物、炒脆皮豬肉芥藍菜(ผักคะน้าหมูกรอบパッカナームーグロップ、100元)を注文しました。台北の近所のタイ料理屋にはあまりないメニューです。

香蕉泰式料理の炒脆皮豬肉芥藍菜

このお店の料理は大盛り且つ辛さも強め。まさに工場で働くタイ人労働者のためにある食堂といった趣があります。

二度目の訪問ではラープムー(ลาบหมู東北涼拌豬肉、150元)とカオニャオ(ข้าวเหนียว糯米飯、30元)というイサーン料理を注文しました。

香蕉泰式料理の東北涼拌豬肉

このラープムーも辛みが強烈!豚肉の甘味や付け合わせのキャベツでしのぎながらおいしくいただきました。(食べ終えてからも辛さで内臓にダメージがきました笑)

香蕉泰式料理でLactasoy

このお店の料理はおそらくどのメニューもタイ人向けの辛さで作られているようです。食事中には甘い豆乳Lactasoyが欠かせませんでした。

野菊花泰式料理

野菊花泰式料理

タイ東北部ノーンカーイ県出身のオーナーが営業する野菊花泰式料理(map)。
このお店がある化成路がタイ街として知られていた時代もあったようですが、今ではこの通りのタイ料理屋はここ一軒だけ。

野菊花泰式料理の写真付きメニュー

店の入り口には写真付きのメニューが掲示されていますが、実際にはこれよりもっとたくさんの種類の料理を注文できます。

何よりこのお店にはかわいい看板ねこちゃんがいます!

野菊花泰式料理の店頭にたたずむねこちゃん

お店の手前にも大きなスペースがありますが、奥が飲食スペースになっています。店内は広々としており、タイの食品の販売も行っているようです。

野菊花泰式料理の飲み物コーナー

お店の冷蔵庫にはタイの飲み物の並んでいます。ビールはSinghaやChangではなくLEO。台啤やハイネケンなどもそろっていました。

野菊花泰式料理の白ねこちゃん二匹と黒ねこちゃん

料理を注文して待つ間、ねこちゃんと戯れます。特に白ねこちゃんの片方がとても懐っこく、熱烈な尻ぽん要求・撫で要求をしてくれました。

野菊花泰式料理

このお店でもクリスピーポークとカイラン菜炒め、炒脆皮豬肉芥藍菜(ผักคะน้าหมูกรอบパッカナームーグロップ、90元)を注文。香蕉泰式料理よりも気持ちチリは控えめで、おいしくいただきました。

野菊花泰式料理の撫で要求ねこちゃん

食事中も撫で要求が止まらないねこちゃん!とてもかわいいです。

野菊花泰式料理

こちらも店内にはお金の木が飾られていました。お店の装飾を見ても、雲泰系のタイ料理屋とは系統が違うように感じます。

野菊花泰式料理の店頭に並ぶお弁当

ちょうど平日のお昼どきに訪問したのですが、食事を終えて帰るころ店頭には袋詰めされたお弁当が並んでいました。近隣の工場で働く人が電話で注文しているのでしょうか。

泰式料理小吃店

泰式料理小吃店

最初にこの一帯を訪れた夜、泰式東北小吃でタイのカレーを食べた後ぶらぶらしていたら、炭火焼の良い香りのするお店を見つけました。

泰式料理小吃店の店頭では鶏肉やソーセージが焼かれている

バンコクの路上でも炭火焼の屋台をよく見かけますが、このお店の前を通りかかるとまるでタイ旅行をしているような気分に浸れます。

看板や店内の雰囲気がまさにタイらしさ満点の泰式料理小吃店(map)。

最初に訪れた際には食事が済んでいたのでガイヤーン(タイ風焼き鳥)をテイクアウト。二度目の来訪時にはタイの屋台でいつも食べていたクイティアオに出会えました。

泰式料理小吃店

料理が運ばれてきた時点で懐かしさで涙がでそうになったクイティアオ・ウア(ก๋วยเตี๋ยว牛肉河粉、90元)。近所のタイ料理屋ではほとんど見かけないタイの屋台のクイティアオ!卓上に4種の調味料も並んでおり、ここはタイでした…!!

泰式料理小吃店

この日は週末の夜。他のお客さんはタイ人の青年3人組のみ。彼らはガイヤーンなどの焼き物をつつきながらビールを飲んでいました。次回は私もそれをやりたいです。

泰式料理小吃店

こじんまりとした店内、ややごちゃっとした店内の装飾。この一帯では私はこちらの雰囲気が一番お気に入りです。


ベトナム&タイ雑貨の藍天商行

藍天商行

移工が集まるところには東南アジア雑貨を扱う商店があるもの。新荘区のこの一帯にも数軒の雑貨屋があります。

藍天商行はベトナムとタイを中心に、東南アジア各国の食品や雑貨を扱っています。

藍天商行

最初に訪れた際にはベトナムのバインミーに使うパンが二つ50元でお得に入手できました。フィリピンなどで食べられるという孵化直前の有精卵バロットから生のハーブ類まで、一般の台湾のスーパーでは手に入らない商品が手に入ります。

藍天商行のハーブコーナー。ガパオ(ホーリーバジル)も並ぶ

店員さんはベトナム語とタイ語、中国語を使いこなし、お客さんによって言語を使い分けていました。

このお店の向かいにはもう一軒タイ料理屋『เจ้ติ๊ก姊弟小吃泰式料理(map)』があるのですが、2022年3月末~4月末まで長期休暇を取られているようで、まだ訪問できていません。


この一帯のタイ料理屋全体に言えることですが、近隣の工場で働くタイ人労働者の日々の食事をまかなう食堂という性格であるためか、どのお店にもデザート類はやっていない純粋な食堂です。


終わりに

新北大橋

新荘区~三重区一帯の工業地帯にはタイ人労働者が集まり、彼ら向けのお店が点在しています。規模は小さいのでこの一帯をタイ街と呼んでいいのか迷うところではありますが、確かにタイ人コミュニティが存在しています。

台湾で働くタイ人労働者は20年前の全盛期と比べると半分以下になりました。2022年現在では台湾全土で約6万人のタイ人が台湾の工場などで働いています。

今回紹介した新荘一帯のほかにも、同じような工業地帯として、MRTブルー線の西側の終点近くの土城一帯にもタイ人労働者向けのタイ料理屋が数軒あるようです。

桃園の龍岡や中和のミャンマー街のように観光地として整備されるでもなく、台北駅周辺のインドネシア街のように、人口が増え続けているわけでもない。工業地帯のタイ街は今ではひっそりとしているものの、異国で働くタイ人たちの心を癒すスポットになっているようでした。




参考資料

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